愛知のLOVE&ビンボー春祭りが毎日新聞に大きく掲載されました。
【毎日新聞】ニュースセレクト > 話題 - 2009.05.01
特集ワイド:今どきの労働運動 シュプレヒコールは古い?
http://mainichi.jp/select/wadai/news/20090501dde012040014000c.html
非正規労働者の“反撃”が始まった。自前の労働組合やイベントで、
企業や世論に窮状を訴えかけるようになったのだ。目覚ましい活躍ぶ
りに、既存の労組もかすみそうだ。年越し派遣村の出現以降、雇用と
貧困を巡る問題は国民的な関心事となった。1日はメーデー。労働運
動よ、これからどこへ行く?【遠藤拓】
◇「派遣村」は労働運動そのもの。動いたのは組合の人々だった
−−「派遣村」村長・湯浅誠さん
◇労使協調が招いた低組織率 個人ユニオンがいずれ変える
−−昭和女子大教授・木下武男さん
◇「粉砕」より「肉食わせろ」
それは、あまりにも“らしくない”デモ行進だった。
4月26日に名古屋市であった「アースデイあいち2009 LO
VE&ビンボー春祭り」(実行委主催)。約20人とやや少なめの参
加者は、手にした段ボール片にそれぞれの主張を記しているが、おそ
ろいのゼッケン、プラカードのたぐいは一切なし。物々しいのは、前
後を固める警察官ぐらいで、参加者は実にノビノビ、楽しげですらあ
る。
「○○反対」「○○粉砕」などのシュプレヒコールもなし。みんな
でメガホンを順番に回し、思い思いに道行く人々へと語りかける。
「僕たちは貧乏人です。貧乏は自己責任じゃありません」「派遣切
りされても頑張ってる」。自己紹介だけでなく、ささやかな要求もち
らほら。「肉食わせろ」「腹いっぱい食べたい」「貧乏は楽しいけど、
やっぱりお金は欲しいぞ」。そのうち、こんなぼやき調まで。「きょ
うは風が強いぞ」「なんか疲れたな」
一行は買い物客やカップルなどでにぎわう日曜夕方のデパート街、
そして周辺の商店街を1時間ほど練り歩き、すっかり注目の的となっ
た。
デモは05年ごろから各地で開かれている「インディーズ(独立)
系メーデー」の一つ。非正規労働者らが自発的に集まり、労働組合の
全国組織(ナショナルセンター)のメーデーとは一線を画す。名古屋
では、アースデー(4月22日)のフリーマーケットや野宿者への炊
き出しも行い、デモの参加者以外にも大勢が集まった。
最大規模の「自由と生存のメーデー」(東京)は昨年、1000人
以上が参加。今年も東京、札幌、福岡など十数カ所で開かれる見通し
だ。
実行委員で、市民団体「氷河期世代ユニオン」代表の小島鐵也さん
(34)は胸をはる。「お仕着せの主張でなく、それぞれが自身の問
題を訴えられた。小規模でも、アピールを重ねるのが大切です」
◇
労働運動の新たな一ページは、ここにもあった。年末年始の東京・
日比谷公園周辺を舞台とした年越し派遣村。500人以上の村民と向
き合ったのは、新旧入り交じった労働組合の関係者だったという。
村長を務めた湯浅誠さん(40)は、派遣村に労働運動が果たした
役割を振り返る。「派遣村は労働運動そのもの。個人や組織、いろん
な形で参加した労働組合の人々が、社会的運動を担う主体として、組
合員ではない人々のために動いた点が大きかった」
そして、こう続ける。「労働組合は、一義的には組合員のものでしょ
う。でも、会社が株主のことだけを考えていれば『ふざけるな』と非
難を浴びるのと一緒で、労働組合にも社会的責任があり、それを果た
したということです」
湯浅さんはそもそも、ホームレスらの生活を支援するNPO法人
「自立生活サポートセンター・もやい」事務局長として活動。だが、
働いても働いても、生活保護よりも少ない賃金しか得られない人々の
相談が増えるにつれ、「労働運動との連帯を進めなければ、『反貧困』
の実現は難しい」との思いを強くした。
湯浅さんは実際、請負会社「エム・クルー」に登録する日雇い派遣
労働者となり、個人加盟ユニオン「エム・クルーユニオン」に参加。
団体交渉に出席し、労働組合のパワーを思い知った。
「労働組合は労働三権で守られていて、会社も無視できない。会社
側は団体交渉を始めるなり、給与からの『安全協力費』などの名目の
天引きをやめると言い出しました。『団体』のメリットはもっと認識
されていいし、個人がこれを利用しない手はありません」
ところで、労働組合の組織率は現在、18・1%。5人に1人にも
満たない計算で、すっかり少数派だ。労働運動の実態に詳しい昭和女
子大の木下武男教授は、この低迷ぶりには二つの背景があるという。
「一つは従来の企業別組合の中で、労使協調が進んだこと。終身雇
用、年功賃金に守られて生活が向上するうち、組合は企業の外に目を
向けなくなり、中小零細企業や派遣社員らを含めた未組織労働者の組
織化がなおざりになった」
「もう一つは、政治に対して超党派的なスタンスを取れなかったこ
とです。特にソ連崩壊以前、労働組合の活動家は労働者を社会主義と
結びつけようとして、労働者のための政策課題とその他のそれをごっ
ちゃにしてしまった」
手厳しい。でも、こうした指摘も、労働組合の在り方を憂えばこそ
だ。
「労働組合とは、労働力という商品の安売りを団結によって防止す
る団体です。たったそれだけのことです。社会の体制を変革するため
の団体では決してありません」
長年にわたり提言を重ねてきたが、「労働組合の現場は耳を傾けよ
うとしなかった」と自嘲(じちょう)気味の木下さん。ナショナルセ
ンターも分立したままだ。それだけに、新たな労働運動の流れには期
待する。
「06年ごろから活発化した若者中心の個人加盟ユニオンは、職種・
業界を意識した組織化を進めている。だから、企業別組合と違って、
いずれはそれぞれの業界に影響力を持ちうるでしょう。派遣村の登場
もあり、若者の間で労働運動への期待が高まっている。こうした流れ
が大きくなれば、いずれ既存の労働組合も変わります」
◇
再び、名古屋のデモ。生活保護を受けながら仕事を探す北海道出身
の青年(25)は「お金が欲しい」と声をからした。年明けに派遣切
りに遭い、野宿をするようになるまでは、トヨタ自動車の関連会社な
どを転々とした。でも、「労働運動なんてピンとこない。『仕事がな
い』と怒る暇があったら、仕事探しをした方がいいと思っている」。
デモに加わったのは、生活保護の申請で世話になった、実行委のメ
ンバーに勧められたからだ。終了後に声をかけると、照れ笑いを浮か
べた。「初めてだけど、思ったより楽しかった。また来るかって?
……お誘いがあれば」