名古屋 いまだ追い詰められて生活保護申請

Esaman2009/03/20
名古屋市の中村区役所には、派遣切りや雇い止めに遭った相談者の列が続いている。16日と17日、中村区役所に来た人たちから話を聞いた。突然の申し渡しで、たちまち住まいをなくすが、手持ちのお金を大事に使い、仕事先を見つけようと動き回る。だが、どこにも仕事はない。そうこうしている内に、お金が尽きて野宿生活。そんな時、区役所の支援活動を聞いて、駆け込む……。こうしたケースを何人も話した。相談窓口を開設している役所に行ってみてはどうだろうか。ほんの一部だが、そんな情報も付け加えた。

http://www.news.janjan.jp/area/0903/0903189612/1.php

荷物を抱えてやってきた相談者に、生活保護の申請の仕方をおしえる支援ボランティア。その様子を取材するマスコミ。(17日撮影)荷物を抱えてやってきた相談者に、生活保護の申請の仕方をおしえる支援ボランティア。その様子を取材するマスコミ。(17日撮影)

 3月16日と17日、年始以来、生活相談の人たちの列が続いている名古屋市中村区役所に行ってきました。16日は月曜日ということもあって101人、新規の人は26名。17日は68人、新規の人は13人でした。

 ここしばらくの平均の相談者は、80人前後だそうです。人数だけを聞いていると、少し落ち着いたのかな、という気もしましたが、中村区役所の対応が手馴れてきて、スムーズになったこと、2回目以降の相談を他の区役所にまわして、相談者を分散させている、ということなどもあり、中村区役所にばかり集中しなくなった、ということも原因のようでした。

 しかし、実態をみると、依然、中村区役所周辺の緊急宿泊施設となっているドヤ(※1)は満室状態。住むところが無く、相談に訪れた人は即日、生活保護の人達向けに作られた、不動産業者の経営しているマンションに向かうことが多いようです。

 このマンションには「貧困ビジネスではないか」という批判もあるわけですが、他に選択肢もほとんどありませんので、利用せざるを得ませんし、緊急宿泊施設のドヤよりは、食べ物はよい、とのことでした(ドヤの場合はパン、カップ麺、コンビニ弁当が出る)。

 この建物は、最近つくられたもので新しいそうです。6畳ほどの個室がたくさんあり、テレビもあるそうですが、風呂とトイレは共同。食事は朝と晩、食堂に集まって食べるそうです。門限は22時。夕飯は17時半〜18時ころ(施設が複数あり若干違う)。寮のようなところだそうです。

 個室でのタバコは禁止。個室での飲酒も、以前はOKだったようですが、いろいろとあったようで禁止だそうです。職員の対応は、横柄だった、という話もありますし、そうでもない、という話もあります。

 生活保護の申請をした人は、以前は申請の手続きの2週間のあいだ、緊急宿泊施設に泊まりながらマンションを探していたのですが、最近はドヤも満杯なので、即日からこのマンションに泊まり、自分の住むアパートを探す例も多いようです。

 生活保護のお金も、2週間を待たずに出る場合もあるそうです。仕事は依然ありませんが、生活保護をとっても早期自立を目指してほしいので、職安には週に2回程度は通ってください、ということでした。

 生活保護の基準額である35000円程度以下のアパートをみつけたら、敷金礼金などは役所が出してくれるのでアパートでの生活に切り替えることができます。さきほどの生活保護の受給者専門のマンションの場合、食費などいろいろと引かれて、手元に残るのは15000円ほどですから、自炊のできる人の場合は、アパートに入居して生活したほうが、効率がよいようです。

 アパートは、申請者の好きな区でよく、最終的に見つかった区での生活保護に切り替わるとのことで、中村区役所にばかり集中しないようにしているようでした。また、連日、人が押し寄せている中村区役所の相談コーナーには、すでに不動産業者の人が何人も待っていて、生活保護の基準額で入れるアパートを紹介するサービスも行っていました。

 「泊り込み事件」などが発生していた当時に比べると、負担を分散させる工夫や、業者などの連携(?)もあり、手際がよくなっているな、と思いました。実際、そのような感じですが、連日の相談の列は、まだまだ続いています。

生活相談窓口の様子。最初の相談以後は、ほかの区へも分散しているので、中村区役所に並ぶ人たちは、少し減っている。不動産屋さんも待機している。(17日撮影)生活相談窓口の様子。最初の相談以後は、ほかの区へも分散しているので、中村区役所に並ぶ人たちは、少し減っている。不動産屋さんも待機している。(17日撮影)

 現場で、詳しく話を聞きましたので紹介します。

●10月には契約更新の話も出ていたが、11月に突然、雇い止めに。

 30代後半。トヨタ系の住み込み派遣の仕事をしていた。現場の工場は名古屋市近郊だが、寮は名古屋の中心にあって、立地は良かった。10月くらいまでは、まだ景気が良くて、契約期間更新の話もでていたが、11月に雇い止めの話になった。12月に契約が更新されずに解雇。1月になって寮を出た。半年ごとに契約更新で、1年間働いていた。その工場は給料は良くて、いろいろ引かれた後の手取りで25〜26万。社員食堂での昼食代は半分は会社が出していた。食費は月に14000円ほどかかっていた。

 その以前に働いていた会社も住み込み派遣で、そこは日払いで5000円もらい、残りは寮費などを引かれ、手元に残るのは月に1〜2万しかなかった。全部あわせると、手取りでは、12〜14万ほどだった。そこで働きつつ、今回解雇された工場を見つけて移ることにした。

 トヨタ系の工場の仕事があるときは、それほどヒドイ状況ではなかったし、今回解雇されてしまった工場は、給料も待遇も結構よかった。10代で働き出して、工場に12年ほど勤めて、それ以後8年ほどの間に、5〜6回職場を変わった。すべて住み込み派遣だった。

 でも、解雇されても次の職場はすぐに見つかったし、場合によっては、今回解雇された工場のように、よりよい条件のところを探すこともできたときもあった。しかし、今回は全く仕事がなくて、路頭に迷ってしまった。

●トイレで拾ったチラシをみて、ホームレスの人に励まされて…

 三河地方の、トヨタ系の自動車部品を作っている工場で住み込み派遣で働いていた。昨年10月の末に派遣の期間が切れて解雇になった。それまで2年以上普通に働いていて、自動的に更新されていたが、夏から9月ころまで、まったくそんな気配も無かった。実際には現場の班長も知らなくて、本社からの指示がきてから、更新されずに解雇になることを知ったようだった。10月の頭に期間満了で雇い止めだと聞かされ、10月末の解雇とともに寮を追い出された。

 働いていたときの給料は、総額で25〜26万弱。寮費が5万5000円、他にもいろいろ12万円以上引かれて、手元には12〜13万円残るだけだった。それでも、8月などは、まだ残業もあり、それなりの給料だったし、解雇されるとは、現場では、ほんとうに誰も思っていなかった。寮を追い出されたときには、手元に20万ほどあったので、それがなくなるまでに仕事が見つかるだろうと思い、名古屋に移動した。

 ところが、仕事がまったくみつからない。派遣会社にも4つほど登録したが、仕事はないし、情報誌にも、いつも同じところがほんの少し載っているが、自分が働けるようなところは、まったくなかった。同じ時期に解雇された友達から、名古屋にいったら仕事があるのかと電話があったけども、まったくないよ、と教えるとびっくりしていた。同僚には、東北、北海道、沖縄の人がとても多くて、気軽に帰れない人達ばかりでした。

 お金がある間は、ネットカフェやサウナなどを泊まり歩いて仕事を探していました。12月ころになると、テレビなどで派遣切りのことが話題になっていたけども、それを見ながら「気づくのが遅いよ」と思ったのを覚えている。手持ちのお金を節約しながら、ネットカフェなどを泊まり歩いていたけども、それも底をついて、なんともならなくなってきた。こんなに長い間、仕事が見つからなかったのは初めて。

 失業保険が何ヵ月か出るのですが、住所が無いので申請ができないでいた。職安で相談したところ、よく行くネットカフェを住所として申請してもよい、ということだったので、申請をしたけども、認定されてお金がおりるのは、1ヵ月ほど先。既にお金も手元に無く、どうしたらいいかなと思って、何日か野宿していたところ、駅のトイレにおちていた中村区役所の支援の紙を見て、公園でずっとホームレスをしている人に聞いてみたら、そういう相談をやっているらしいから、申請にいくといいよと励まされ、バンとジュースをもらった。とてもうれしかった。

 失業保険が出るまでの1ヵ月ほどの間だけでよいので生活保護を、と申し込んだら、すぐに出ることになった。敷金と礼金、家具を用意するお金が少しいるので、とても助かる。さすがに失業保険だけでは、敷金礼金は払えないし、住所がないと、ごはんを食べるのも割高になるし、寝ているだけでもお金が減っていき、10万円ほどのお金も、あっという間になくなる。トイレでチラシを拾えて、とてもよかった。

●日勤・夜勤を連続勤務。鳶職の仕事を肩代わりしても賃金は変わらず…ある土工さんの話。

 土工として、寮のある会社で働いていた。その会社では土工は日当9000円。鳶職は13000円。土工も鳶職も、日当から寮費や食費などで2500〜3000円とられる。鳶職は高いところで作業をするし、仕事も違うのだから給料が違うのは当然だと思う。

 ところが、自分は土工なのに鳶職の仕事をさせらたことが何度もあったのに、給料はそのまま、ということが何日も続いた。挙句の果てには、日勤を終えて帰ってきたら、次にそのまま夜勤の仕事につかされるということが続いた。1日おきにそんなことがあった。これでは体が持たない。

 そうかと思うと、仕事が全く回ってこない日もあった。仕事はあるのだが、古い人を優先していれているので、自分まで仕事が回ってこない。最後の月には、月に10日ほどしか仕事がなかったし、1週間全く仕事がない日もあった。そんなときでも、食費や寮費は毎日とられるので、結局手元にお金はなくなって、やってゆけなくなった。

 仕事場を飛び出して、手配師に相談したら、いまは探しても仕事がないので、中村区役所にいって、なにかの申請をしたらどうだとすすめられて、やってきた。この季節に野宿は辛い。とにかく泊まる場所がほしい。

 相談者たちは、やはり、解雇されても、しばらくは手元のお金でなんとかしようとして、仕事を探すものの、全く見つからず、手元のお金が数百円になって、野宿をして、そこで、なんらかの経緯で中村区役所の話を聞いて、フラフラになりながらたどり着く、というパターンが多いことです。1月になって寮を追い出された人もいますが、10月に解雇になって、いままで、なんとか自力で粘っていた人もいます。

 契約期間が満了しても、それまでは自動的に更新されていたのが、更新されずに解雇された人が多くいます。また、住み込み派遣の人だけでなく、いろいろな業態の人たちにも、不況のしわ寄せが始まっていることも分かりました。

 中村区役所の連日の相談者の数は、以前の平均100人前後から、平均80人ほどと、一見減っているのですが、これは、対応の手際(生保までの手順)が良くなったのと、ほかの区役所にも負担を分散させているからで、実数としては減ってはいないようです。

 愛知県下では3月に数万人が解雇される、という予想もありますが、手元にお金がある間は、みんな自力でがんばろうとするので、その人たちが相談者として役所を訪れるのは、数ヵ月先になるかもしれません。当初は、生活困窮の人が増えるのは、3月がピークではないかと予測されていましたが、表に出始めるのは、もう少し先になりそうです。これから数ヵ月が、本当の正念場だと思います。

※1 主に日雇い労働者向けの、1泊1000円〜2500円の宿のこと。


お昼には、区役所の外に炊き出しの列ができる。(17日撮影)お昼には、区役所の外に炊き出しの列ができる。(17日撮影)

 
このような時代なので、愛知県三河地方の大都市・岡崎でも、派遣切り相談会が開催されます。この相談会では東京の派遣村のように、泊まったりすることはできませんが、この相談会は、相談したことを証明する書類を出し、それを持って次の週に役所に行くと、何日か後でも、23日の月曜日にさかのぼって保護の申請や相談が行われたことにしてくれるそうです。月曜日は、どこの役所も相談が集中することへの配慮だそうです。また、相談する自治体は、前日に何処に泊まったか、ということがポイントとなり、たとえば碧南で野宿をした人が岡崎で相談した場合、碧南市に申請をするようです。名古屋の場合は多すぎるので岡崎でよい、とのことでした。

◇ <派遣切り、雇い止め、住居が無いなど困っているみなさんへ。雇用、住宅、生活保護、多重債務、医療・健康、よろず相談会 >

 昨今、「派遣切り」・雇い止めにより、数万人規模の非正規労働者が仕事と住まいを奪われ、帰る家がない多くの非正規労働者がホームレス状態に追い込まれています。雇用を打ち切られた方、3月末に「派遣切り」・雇い止めで失業するおそれがあるみなさん。ぜひ、この機会にご相談ください。相談は無料です。

日時:3月21日(土)10 時〜17 時  22日(日)10 時〜16時
会場:東岡崎・岡ビル百貨店3F 岡崎市明大寺本町4-70 (名鉄東岡崎駅徒歩0分)
相談内容:雇用・労働相談、住宅相談、医療相談、生活保護相談、多重債務相談、その他生活全般の相談

 相談員は弁護士、司法書士、医師・看護師、精神保健福祉士労働組合役員、市民ボランティアなどの専門家。

※会場で宿泊はできません。

主催:愛知派遣村実行委員会 後援 愛知県弁護士会
実行委員長:藤井克彦(笹島診療所) 副委員長 水谷英二(司法書士)、柘植直也(弁護士)

連絡先(期間中のみ)
本部事務局:森 弘典(弁護士) Tel 090−1727−1920
現地事務局:高?美奈(弁護士) Tel 090−1236−7268

※電話での相談は受け付けていません。相談のある方は当日、会場にお越し下さい。
◇ ◇ ◇
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