「生活保護費削らないで 各種団体が抗議活動」(中日新聞2007年10月25日)

P・ハセガワ



 厚生労働省は、生活保護の基準額の見直しを話し合う有識者検討会を十九日にスタートさせた。財政再建に向けて社会保障費を抑える国の方針の一環だ。引き下げられれば、生活保護を受けている世帯の生活が苦しくなる。低所得者向けの施策の適用基準にも生活保護基準額が使われていることが多く、生活保護受給者以外にも影響は及ぶ。生活保護や貧困の問題に取り組んでいる団体は抗議活動を始めた。 (白井康彦)


 新たに設置されたのは、厚労省社会・援護局長の私的研究会「生活扶助基準に関する検討会」。初会合には報道陣のほか、弁護士、司法書士生活保護問題に取り組む団体幹部など約三十人が傍聴。社民党福島瑞穂党首も顔を見せた。


 生活保護費には、日常的な生活費に相当する「生活扶助」、家賃部分の「住宅扶助」、医療費負担をゼロにする「医療扶助」など八つの扶助がある。生活扶助の金額は、全国を六区分した「級地制度」(1級地−1〜3級地−2)で地域ごとの物価の差を反映させている(表参照)。


 初会合で厚労省は「級地を含む生活扶助基準の見直しを検討する」と説明した。生活扶助に関しては二〇〇四年度以降、高齢世帯に対する上積みの「老齢加算」が廃止され、母子家庭が対象の「母子加算」も削減され始めている。今回は対象が限定されていないので、影響はより大きい。


 厚労省は全国消費実態調査のデータを提出。一般の低所得世帯の消費支出額と生活扶助基準額とを比べた表を示した。低所得世帯の消費水準を基に生活扶助の基準を決めていこうとする考え方だ。


 厚労省は検討スケジュールについては「来年度の予算編成を視野に入れて結論が得られるようにする」という方針を示した。国の来年度予算は年末までに政府案が出されるので、検討期間は短くなりそう。


 生活保護制度に関するこれまでの政府内の検討経過も説明。〇六年の「経済財政運営と構造改革に関する基本方針」(骨太の方針)に生活扶助基準や級地の見直しが盛り込まれていることも示した。生活保護費の抑制のために周到に手を打っている国の姿勢が分かる。

 

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 検討会が開かれていた十九日夜、東京・霞が関厚生労働省のビルには、「生活保護問題対策全国会議」や「反貧困ネットワーク」に所属する弁護士、司法書士労働組合幹部らが集合。記者会見を開いたり、ビル前の路上でマイクで演説したりして、生活保護費削減の動きに抗議した。


 ネットワークの湯浅誠事務局長は「基準額の切り下げで生活保護受給者の生活が直撃を受けるというだけではない。国民生活全体に影響が出る」と強調。生活保護基準額が下がったときには▽地方税の非課税基準が下がる▽自治体によっては国民健康保険料や公立高校授業料の減免基準が下がる−といった影響が出ることを説明した。


 民主党山井和則衆院議員が質問主意書で生活扶助基準の見直しについて尋ねたが、政府の十月二日付の答弁書は「具体的な検討の進め方については現時点では未定」とあいまいな表現。また、検討会の開催がホームページで公表されたのは、初会合からわずか二日前だった。
 そのため、「もっとオープンな形で審議してほしい」と弁護士らは強調している。



 <メモ>生活保護 世帯収入が国の定める最低生活費(生活保護基準)を下回るときに不足分が支給される。資産や働く能力などをすべて活用しても生活が成り立たない場合に限られる。財源は国が四分の三、自治体が四分の一を負担する。本年度予算では生活保護費は国と自治体合わせて約二兆六千億円。今年七月の受給者は全国で約百五十三万人。一九九五年の約八十八万人から増え続けている。現在は受給者の約半数が六十歳以上。