名古屋・派遣切り最前線中村区役所を舞台にボランティア 日々奮闘

Esaman2009/02/05
前回、前々回と報告を書きました。こうしたなかで、1月26日月曜日。色々と大騒ぎになっている、名古屋・中村区役所を、再び取材してきました。前回、前々回の記事は、中村区役所で進行している事態については、取材に十分な時間がとれず、関係者からの聞き取りを中心とした、おおまかな記事になりましたが、今回は1日現場にはりつき、申請に来た人々の話を中心に、聞き取りを行いました。「ボランティア現場での支援」「派遣切りとホームレスの現状」について報告します。

http://www.news.janjan.jp/area/0902/0901296437/1.php

手製の味ご飯を配る、笹日労芸能部の、えぐれささしま さんと、大西豊さん。
手製の味ご飯を配る、笹日労芸能部の、えぐれささしま さんと、大西豊さん

前回記事:
名古屋越冬・最終日、派遣切りの若者、やっとで合流
名古屋市中村区役所の非情な対応に家の無い人々が泊り込みで抗議

●「中村区役所」が舞台となる理由。業界用語としての「ササシマ」

 まず、会場となっている「中村区役所」ですが、ここにどうしてホームレスの人々が大勢押しかけるかというと、名古屋と各地を結び、市外、市内につながる、あるゆる鉄道が停車する「名古屋駅」があるエリアの区役所だからです。仕事を失い、家もなくなった人々は、とりあえず名古屋駅を目指し、そのままホームレスになることもあります。現在は解体され町並みは痕跡しか残っていませんが、かつては日本有数のドヤ街である「笹島(ササシマ)」を抱えていたエリアでもあります。

 「ササシマ」という呼称は、現在は名古屋駅の南部をさす慣習としての地名、あるいは交差点や小学校の名称としてしか存在していませんが、かつてはこの地区一帯にドヤ街があり、そのドヤ街のことをさして「ササシマ」と呼んでいたということです。そのころの名残りでしょうか?「日雇い・ホームレス業界」では、中村区にある職安周辺に、早朝に日雇いの仕事を求めて人が集まってくる状態のことをさして「ササシマ」と呼称する習慣が残っています。

(例:明日はササシマにいるよ…交差点や地名としての「笹島」のことではなくて「その時間」中村職安周辺に居ること)

 中村区役所には、ホームレスになった人たちも使えるように、シャワー室なども完備されており、生活保護申請や、一時宿泊所の案内なども、他の区よりも頻繁に行われています。かつてドヤ街だった名残として、1泊1500円〜2100円の宿が周辺に点在している、という事情も一時宿泊所の案内に影響していると思います。

●「支援」の入り方。どのような手順で、なにをするか?

 1月26日、朝の8:20分に中村区役所に向かいました。すでに大勢の人々が並んでいます。どのような人々かというと、家も食も失って、ホームレス状態になっている人で、初めて申請に来た「新規」の人もいますが、すでに役所には相談しているが、病院の診察手続きや、一時宿泊所の切符の更新のためにきている「継続」の人も、それなりの数います。集まった人たちは、中村区役所の2階ホール前に臨時に設置されている受付に行き、整理券をもらい、待機します。数字が早いほど早く呼ばれるかというとそうでもなく、医者にかかる予定の人などが早めに呼ばれます。だいたい、30〜50番台で午後にズレ込みます。

 ここで「支援」は何をするかというと、役所の2階の特設受付エリアで自分の番を待っている人たちに、色々と聞き取り調査をします。整理番号や名前、新規か継続か、今はどこに泊まっているか、病気はないか、希望する申請内容、申請後の役所の対応、などを、色々と聞きます。もちろん、詳しく話したがらない人もいるので、そのあたりは「間合い」を測りつつ聞きます。

 この聞き取りの目的は、主に2つ。

・初めて申請に来た人に、いろいろな申請方法をと権利を説明する。
・申請者が、書類を受け付けられなかったり、本人の希望を曲解されたり、今日泊まるところもなく追い出されたり、ということがないように、チェックする。(『水際作戦』の防止)

 『申請』のルートは、大きく2つ存在します。

・「アパートでの生活保護」を獲得し、社会復帰を目指すルート。
・「自立支援センター・シェルター」などに住みつつ、社会復帰を目指すルート。

○「生活保護コース」のながれ

 お年寄りで働くのが酷である、病気で働けない、仕事を探していてもみつからない、などの理由があって生活できない場合、誰でも年齢に関係なく、生活保護の申請ができます。これは、憲法でも保障された当たり前の権利であり「若いとダメ」「病気でないとダメ」などの理由をつけて、申請させないこと(水際作戦)は違法です。

 申請者は、住むところが無い、仕事が無い、仕事を探しているがみつからないので、仕事を探すためにも生活保護がほしいこと(人によっては、高齢、病気などで働けないなど)、アパートで生活したいこと、敷金、礼金などを出してほしいこと、そして、現在の資産状況などを申請希望書類に書いて提出します。用紙は、いままでは隠されていて出てこないので申請できない、という子供のイジメのようなことが頻発していましたが、現在は、支援側がコピーして配っているので大丈夫です。

 申請の際、役所側の人間は「相談は、お聞きしました」などといって、書類を受け取らずにごまかす水際作戦の一つもあるので、受け取ったことを、支援、当事者共に見届けます。また、申請書に「敷金・礼金を出してほしい」ということを明記する理由としては、アパートでの申請は許可するが、敷金・礼金を払え、という無茶(一文無しで相談に来ているのです!!)なことを言ってくる場合があるから、とのことでした。

 一旦、申請書を提出された役所側は、2週間の間に申請の内容が虚偽でないかを調べて、結果を出さなければなりません。申請後、銀行口座などの資産が残っていないか調査されたり、申請者の親や兄弟に連絡がいきます。親や兄弟に連絡をとってほしくない、という人はこのルートは選択できません。

 申請が審査されている2週間の間は、緊急宿泊所で泊まったり、一時保護施設に泊まったりしながら、通院や就職活動を行います。「緊急宿泊所」というのは、行政がお金を出して、中村周辺の安い宿をとったりするものです。1日に230円ほどの生活補助金も出るとのことです。「一時保護施設」というのは、家の無い人たちが泊まって生活して、社会復帰を目指す施設として建てられている建物で、市内にいくつかある寮のようなところです。これらの施設は、それぞれ条件が違い、1人部屋、2人部屋、4人部屋などがあります。

 この2週間の期間中の通院は、行政側が負担をして、診察などを行います。野宿を続けていると、若い人でも、ひどく体調を崩すことがあります。支援の人たちは、今後の就職活動に備えて「リセットするつもりで」体の色々な所をみてもらうように、というアドバイスをしています。そして2週間後に生活保護の申請がおりた場合はアパートでの生活が始まります。生保の申請が下りなかった場合は、今回の活動において、生活保護の申請が本格化してから、間もない(※1)ので、詳細は不明です。

※1:行政が「市ではなく区の対応」として、生活保護の申請を多くの人に認めはじめたのは、年始に大量の人たちがおしかけて緊泊、一時保護施設ともにパンクし、「申請拒絶」を行い、怒った当事者たちが役所に「泊り込み」を開始。結果、15日の夕方からです。まだ申請後2週間たっていない人も大勢いるので、申請が皆通るのか、今後どうなるのかは、動静を見守る必要があります。

参考:名古屋市中村区役所の非情な対応に家の無い人々が泊り込みで抗議

○『自立支援センター・シェルター』のながれ

 色々な事情などで、生活保護の申請をしたくない、という人には、自立支援センターや、シェルターへの入居を勧めます。これらの施設は、宿泊しながら就職活動を行うところです。食事は3回出るところと1回出るところがあります。時々仕事があり、月に7000円(食事3回の施設)、35000円(食事1回の施設)を、稼ぐこともできます。

 ところが、シェルター、自立支援センターともにすでに満員になっており、入居を待つ間、前述の緊泊や一時保護施設に泊まることになります。その間に、就職活動や通院なども行います。これらの施設は、生活しつつ、仕事を探して、お金をためて、自力でアパートに入居することを目指す施設ですが、現在は、若い人でも求人は全く無く、結果として、何ヶ月もの時間がかかり、アパートに入居できないこともあるそうで、支援としては、どこの施設も満員になっているので、生活保護を獲得してアパート入居を勧めている、とのことでした。

 筆者としても、仕事がないなかで「仕事をしてお金をためて自立」という、いつ描けるかわからない絵を無理矢理描くよりは、生活保護をすぐにとって、安定した生活を送りつつ、就職活動をしたほうが、精神的にも余裕ができて、結果として時間も税金も安く済むのではないかと思うので、良い方法だと思いました。

 これらの一連の活動をサポートするのが「支援」がやることです。もっとも「聞き取り」も「申請も見届け」も、ある程度の経験がいる作業ですが、それ以外の仕事もいろいろとあるので、初心者でも歓迎、とのことでした。朝の8時30分頃に中村区役所にきてくれれば、誰かスタッフがいるので、説明をしてくれるそうです。また、手伝いだけでなく、物資としての支援も歓迎とのことでしたが、中村区役所に直接持ち込まれてもこまる場合もあるので、事前に現場まで連絡ください、とのことでした。最近では、有志の主婦の人たちが炊き出しでおにぎりを作って来てくれたりしているそうです。

芸人である、えぐれさんの軽快な語りに、並んでいる人たちにも笑いが起こる。
芸人である、えぐれさんの軽快な語りに、並んでいる人たちにも笑いが起こる。

●『支援』をしているのは、どんな人たち?

 現在、中村区役所で日々「支援」活動をしている人たちは、名古屋の越冬や炊き出しなどで活躍している人たちです。ですが、越冬や炊き出しだけでも、非常に大変な仕事である上に、中村区役所で毎日繰り返される「支援活動」を、組織的に支援できているかというと、そうではありません。内実としては「越冬」や「炊き出し」に関わっている人たちで、時間のある人たちが、できる時間に、できることを現場にきてしている、という状態になっています。実行委員会があるわけでもなく、特定の組織や労組などがパックアップしている状態でもありません。参加している個人個人の努力で支えられている状態です。
 笹島診療所で30年以上活動してきて、今回の中村区役所騒動でも、もっとも長く現場にはりついている一人である、藤井克彦さんは、「ほんとうは、実行委員会などを組んで活動したほうがいいのですが、そのような調整や話し合いをする時間すらなく、現場での対応に追われています。笹島連絡会や診療所がやっている、というわけでもなく、とにかくできる人同士で、現場でできることをしている状態にあります」と、風邪気味な声で語ってくれました。

●『申請者』のみなさんは、どんな人たちでしょうか?

 色々な事情から、ホームレス状態になった人たちです。以前からホームレスだった人も、いま話題となっている「派遣切り」にあった人たちも、両方います。以前からのホームレスの人たちも、社会情勢の変化によって、ただでさえ厳しい生活が、より厳しくなっているのは事実なので、相談にやってきます。(ホームレスになっていても、廃品回収などで働いている人が、結構いるのです)ですが、長年ホームレスをしている人たちは、役所では「水際作戦」などで嫌な目にあっている人が多く、建物に近づくのも嫌だ、という人も少なくありません。そのような人たちに、生活保護の申請をして、本当に通ることがある、アパートに入れる、ということを信用してもらうのは一苦労であると、長年支援活動に携わっている人は語っていました。

 最近は、目立って派遣切りにあった若い人たちが増えてきました。手元に現金がなくなり、何日か野宿をして、人に聞いたり職安で聞いたりして、たどり着く人が多いようです。

 ある20代前半の若者は「住み込み派遣だったが、1月に入って寮を追い出された。色々と引かれて手元には2万円も無かった。以前なら仕事がなくなっても、次の住み込みの仕事がすぐに見つかった。なんとかなるだろうと、とりあえず名古屋に来てみたが、以前と違って全く仕事は無い。求人情報誌の厚さが半分以下になっている。すぐに現金は底をつき、移動すらできなくなった。街中を歩いて周り、夜中はネットカフェが入っているビルの1階などで過ごした。雪も降って大変だった。住所不定無職に、自分がなるとは思わなかった。職安で中村区役所のことを知りやってきた。米を食べたのも、シャワーを使ったのも何日か振りで生き返った気がした」とのことでした。

 もう少し、お金をもっている人たちは、まだネカフェや路上に多数いるのではないかと思います。組織的な対応はできていませんが、中村区役所の支援の現場では、ボランティアを常時募集しています。

中村区役所二階に設置された、臨時受付の様子。
中村区役所二階に設置された、臨時受付の様子。


●中村区役所の現場にいる参加者で確認した方針
・今後も、可能な限り毎日中村福祉事務所に行こう。
・ただし互いに協力をするが、個人の意思・責任でやるしかない。
・宿泊場所の紹介がなかった場合、区役所2階で寝場所を求める。退去命令が出たら撤退する。

●参加方法…
・毎日8時半に中村区役所に集合して打ち合わせをする。スタッフには首からカードを下げている人が多いです。

●現場でやっていること
 2階の受付と待合室にいる人たちにチラシを配り、声をかけ、話ができそうであれば話をする。生活保護の詳しいことを知りたそうな人には、資料を配る。生活保護申請、とくにアパート生活が可能な人は、「敷金支給によりアパートに入居したい」という申請書を出すように呼びかけ、その援助をする。 生活保護申請以外の方法についても希望があれば紹介する。

●近日中に「支援実行委員会」を組織する予定

●支援者講座(主催:東海生活保護利用支援ネットワーク)
・2月5日(木)19〜21時 愛知県司法書士会館(熱田区新尾頭1-12-3)金山駅から徒歩10分
生活保護制度について(法律家)
名古屋市の住居のない人への生保適用状況(藤井克彦)、など。


◇ ◇ ◇

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