名古屋・派遣切り最前線・『泊まり込み事件』の真相

Esaman2009/02/07  
前回、前々回の記事は、中村区役所で進行している事態については、取材に十分な時間がとれず、関係者からの聞き取りを中心とした、おおまかな記事になりましたが、今回は1日、現場にはりつき、申請に来た人々の話を中心に、聞き取りを行いました。愛知県下で発生している『泊まり込み事件が発生した詳細』について報告します。

http://www.news.janjan.jp/area/0902/0902060935/1.php

中村区役所の二階のホールの前の廊下には、5分の1から緊急窓口が設置され続けている。中村区役所の二階のホールの前の廊下には、5分の1から緊急窓口が設置され続けている。
中村区役所の二階のホールの前の廊下には、5分の1から緊急窓口が設置され続けている。 1月26日月曜日。 前回、前々回と報告を書きました、色々と大騒ぎになっている、名古屋・中村区役所を、再び取材してきました。

 前回、前々回の記事は、中村区役所で進行している事態については、取材に十分な時間がとれず、関係者からの聞き取りを中心とした、おおまかな記事になりましたが、今回は1日、現場にはりつき、申請に来た人々の話を中心に、聞き取りを行いました。愛知県下で発生している『泊まり込み事件が発生した詳細』について報告します。

名古屋越冬・最終日、派遣切りの若者、やっとで合流
名古屋市中村区役所の非情な対応に家の無い人々が泊り込みで抗議

●『区役所での泊り込み騒動』は、何ゆえに発生したか? 騒動の原因は?

 前回の記事でも紹介しましたように、中村区役所には、連日100名を超えるホームレス状態になった人々が押しかけていました、そしてその騒動は1月13日、中村区役所での『泊り込み』にまで発展することとなりました。その経緯を、初心者の方にもわかるように判明した範囲で紹介します。

 まず、役所が閉まってしまい、行くところがなくなる人々のために、毎年「越冬活動」が行われています。越冬活動は公園にテントを張ってたき火を炊いて暖を取るもので、名古屋では12月28日〜1月4日の間行われました。

 1月5日から役所の営業が開始されます。毎年、ホームレス状態になった人たちで、なんとかしてほしい、という人は、役所の窓口に申請に向かいます。その要望としては、『緊急宿泊所(通称キンパク)・一時保護施設』(行政が安い宿を借りたり寮を紹介。1日〜数週間単位)に泊めてもらったり、『自立支援センター』(宿泊できて飯が出る、入りながら仕事を探す。数か月単位)に入居を希望したり、『アパートでの生活保護』を申請したりします

 1月5日、例年ならば、年明けといえども役所の窓口に並ぶ人は『多い時に10人(長年関わっている人の話)』程度なのですが、今年は午前中だけで40名を超し、最終的には80人以上が相談にやってきました。

 ところが、『自立支援センター』へ入居を希望しても、年末にすでに満員になっていて、入れません。『アパートでの生活保護』は、水際作戦などもあり、非常にハードルは高いものになっています。そこで役所側は、入居を待つ間、自律支援センター『緊急宿泊所・一時保護施設』に泊める、という対応をしていました。

 こうした中で、年末、既に多くの人たちが『入居待ち』として泊まっていたので、緊急宿泊所・一時保護施設も数日で満員になりました。区役所には、1日単位でしか『緊泊』の切符をもらえない人たちが並び、どんどん増えていきました。そのあと、行政は派遣切り(?)で空いていた社員寮を借り上げて、入居施設として提供を始めましたが、そこもすぐに満員になり、対応能力を超えてしまいました。

 そして、土日をまたいだ13日、いつもよりも多い人たちが押し寄せる中、中村区役所が、駆け付けた相談者の一部を、宿泊所をなにも紹介せずに追い返したことが『泊まり込み事件』の発端になった、とのことでした。その後、15日夕方、泊まり込みを続ける人たちに対して、中村区役所側は『名古屋市ではなく、中村区としての』判断として、自立支援センターや緊急宿泊所、一時保護施設のほかに、ア パートでの生活保護を認めることを発表、泊まり込みを行うような事態は、とりあえず解消されました。

緊急窓口では現在、有志による炊き出しが続けられている。写真は笹日労芸能部の大西さん(1月26日朝)緊急窓口では現在、有志による炊き出しが続けられている。写真は笹日労芸能部の大西さん(1月26日朝)

●現場ボランティアの声

 これらの事情について、笹島診療所の藤井さんは、以下の通り答えています。

 「たしかに、宿泊所を紹介せずに追い返した中村区役所の対応には問題があります。ですが、緊急宿泊所の対応力と予算を決定しているのは名古屋市ですから、緊泊の能力を、市が拡充するという決断をすればよかったわけで、中村区役所だけを責めることはできません。 また、根本的な話としては、生活保護よりは自立支援センターを優先する、という厚労省の姿勢に原因がある話といえるので、国レベルでの姿勢を責める必要があります。今回の『生活保護でのアパート入居対応』も、中村区役所として、できることを考えて対応していると、とらえることもできます。本来は、生活保護という制度は、もっと幅広く活用される必要のある制度なのです」とのことでした。

 たしかに、今までなかなか認められなかった、アパートの入居を前提とした生活保護の申請を認めだした、というのは、画期的なことです。「法律的には、そんなものは当たり前の権利だ」という意見も正論ですが、いままで基本的には滅多に認められなかったことが進行しつつあるのは前進です。とはいえ、その「紹介されるアパート」には、生活保護の人たちを入居させることを専門にしている企業のようであったり、6ヶ月という期間限定があったり、という点が、微妙に怪しい、という心配はあります。

 この日に、いろいろと相談した人たちの話によると……「職員の中には、他の区からの応援も多数きている。マジメに親切に対応してくれる職員もいるが、中にはヒドイ対応をする人もいる。目にした例としては、当人は、アパートでの生活保護の申請をしているのに『アパートのようなものだ』ということで無理やり老人ホームに入れようとして、そのことを指摘されると『支援の人が騒ぎを起こして申請者が困っている』という無茶苦茶をいう職員がいた。また、生活保護の申請書を出したが、一時入居で移動した施設で『区が変わったので』ということで、生保の申請書は無視して、別の申請書類をかかせる、という行為もあった。

 病院に通院したい、という要望に対して『診断書はここでは出せません』という、日本語的におかしな対応をして誤魔化す、という例もあった。また生保の申請後『アパートを探してきたら、申請ができる』ような説明をして、申請者が必死になって入れるアパートを探していると『アパート探しばかりしていて、就労の意思が無い』と難癖をつけたりした例もあった」とのことでした。

 これらの「難癖」は、すべて「水際作戦」と呼ばれているものだと思います。実際に申請に言った当事者の話を総合すると、中村区役所の職員も、親切に話をきいてくれる人も、それなりにいる、とのことでした。

参考:瀕死の生活保護制度を救え! (1) ―「水際作戦」窓口の実態―
参考:瀕死の「生活保護制度」を救え!(2)各地からの報告

 筆者の印象としては、他の施設からやってきた職員が、そのようなことをしている可能性もあるのでは、と思いました。その際、その『水際作戦的な対応』が、単に不慣れなために連絡不足で発生しているのか、それとも、他の区役所では、いまだに平然とそのような対応がなされているために、そのような対応が出てきているのか、については、見極める必要があるなと、思いました。

 もっとも、社会から阻害されたり、いままで何度も役所で惨い目(水際作戦)にあったことのある人は、コミュニケーションが取りにくくなっている場合も、それなりにあると思うので、誤解もあるかとは思います。ですが、そのような状態に、その人を追い込んだのは、いままで無対応だった行政に責任があることも確かなのですが。

1月13日に中村区役所から出された「退去勧告」。その日に泊まる場所のない人たちを放置しての勧告が、泊り込みに発展した。1月13日に中村区役所から出された「退去勧告」。その日に泊まる場所のない人たちを放置しての勧告が、泊り込みに発展した。

●中村区役所、今後の展望は?

 2月から、中村区役所二階のホール前の臨時相談所は、使えなくなる可能性があるそうです。これに対して、断固使用を要求する、という意見もあるでしょうが、2月に入ると、確定申告などで役所が忙しくなり、大変なのも事実ですし、そもそも、ホール前の空間を占拠しているので、ホールを使用することができなくなっているのも確かです。

(このホール、実は2007年の年末に生活保護を考える集会)でも使用しています) また、現在のように、中村区役所の職員ばかりが苦労をする、という状態もあまり良いものとは言えません。

 そのような事情で、中村区役所での騒動は、1月いっぱいを目処に、現場を変える可能性があります。ですが、派遣切りなどで切られた人たちには、まだ少しの現金があったり、人によっては1月にもう1回、賃金の支払いのある人もいると思われます、というか、筆者は、越冬活動、中村区役所での騒動を通じて、そのような人たちに多数会ってきました。そして、経験の無い人は、手元のお金が、本当になくなってしまうまで、炊き出しや野宿はしないものですし、そのような状態になっても、区役所への申請には、情報が無いので、たどり着かないものです。2月、3月になるにつれて、ホームレスとなって相談窓口に来る人は、増えるのではないか、という観測もされています。

 事実、1月26日の相談者は支援サイドで把握しているだけで116人。(把握できていない人たちが10-20人いるかもしれません) 先週は、連日100人前後だった、とのことですから、地味に増えています。また「派遣切り」の若い人たちも、目に見えて増えつつあります。

 このような状況に対して、もちろん、行政当局に対して、中村区役所の負担を減らす意味合いも込めて、特別の窓口を設置することを要望していくとともに、「派遣村」のようなテント村を設置してはどうか、という話し合いも、支援者の中では出てきています。どこに設置するのか、誰が運営するのか等、課題は山積みです。ですが今後、ホームレスとなる人が増える予想はあっても減る予想は立てにくいのが現実ですから、なんらかの対応が求められます。

 次回は、具体的な『支援』の入り方と実際について報告します。

◇◇◇

 組織的な対応はできていませんが、中村区役所の支援の現場では、ボランティアを常時募集しています。

●中村区役所の現場にいる参加者で確認した方針
・今後も、可能な限り毎日中村福祉事務所に行こう。
・ただし互いに協力をするが、個人の意思・責任でやるしかない。
・宿泊場所の紹介がなかった場合、区役所2階で寝場所を求める。退去命令が出たら撤退する。

●参加方法…
・毎日8時半に中村区役所に集合して打ち合わせをする。 スタッフには首からカードを下げている人が多いです。

●現場でやっていること…
 2階の受付と待合室にいる人たちにチラシを配り、声をかけ、話ができそうであれば話をする。生活保護の詳しいことを知りたそうな人には、資料を配る。生活保護申請、とくにアパート生活が可能な人は、「敷金支給によりアパートに入居したい」という申請書をだすように呼びかけ、その援助をする。 生活保護申請以外の方法についても希望があれば紹介する。

●近日中に「支援実行委員会」を組織する予定です。

●支援者講座(主催:東海生活保護利用支援ネットワーク)
・2月5日(木)19〜21時 愛知県司法書士会館(熱田区新尾頭1-12-3)金山駅から徒10分
生活保護制度について(法律家)
名古屋市の住居のない人への生保適用状況(藤井克彦)、など 

退去勧告に対して1月15日に支援側が配った「緊急アピール」。1月7日に年末年始の一時保護施設「船見寮」から追い出された人たちが、さらに中村区役所で「お引取りください」といわれる事態に抗議している。退去勧告に対して1月15日に支援側が配った「緊急アピール」。1月7日に年末年始の一時保護施設「船見寮」から追い出された人たちが、さらに中村区役所で「お引取りください」といわれる事態に抗議している。

泊り込み事件について報告する週間笹島。独特の文字が特徴。 泊り込み事件について報告する週間笹島。独特の文字が特徴。

◇ ◇ ◇
関連リンク・名古屋年越し:
名古屋越冬・最終日、派遣切りの若者、やっとで合流2009/01/24
映画「蟹工船」を観て、生き辛い社会を語り合う「カニコー」鍋開催。2009/01/22
名古屋市中村区役所の非情な対応に家の無い人々が泊り込みで抗議2009/01/20
正月からホームレスのために動いた若手記者―無責任な大手マスコミにも鶴2009/01/07
新春早々名古屋で「ハツモウデモ」―鍋サミットも開催2009/01/06
生存権確立願い、名古屋で「初詣デモ」行われる2009/01/05
第34回名古屋越冬・応援のメッセージをこめて朝鮮舞踊ノリパンが舞う2009/01/05
なごやボランティア・NPOセンター、経営側の暴走のまま年越し2009/01/04
名古屋越冬・餅つき大会で亡くなった仲間を追悼2009/01/03
名古屋越冬・ブラジルからの出稼ぎ労働者も参加し、ビンゴ大会で年越し2009/01/02
名古屋駅前・西柳公園で越冬炊き出し2009/01/02
名古屋越冬・マスコミが大挙押しかけ『派遣切りの若者居ないか』かなり迷惑する現場2008/12/30