NO 貧困〜名古屋行動集会(3)本集会・お互いの「いきにくさ」を報告(JANJAN記事)

nagoya_p_net2007-06-17


2007/06/16

http://www.news.janjan.jp/area/0706/0706137236/1.php

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前回記事:NO 貧困〜名古屋行動集会(2)集会前座・路上開放コンサート

 噴水前の炊き出しのあと、教育館に移動して、集会を行いました。この集会から参加する人たちも多く、教育館の2階の会議室は、立ち見の人や会場の外で話を聞く人もでるほどのすし詰め状態となりました。それだけ「貧困」の問題を、自分に切迫した問題ととらえる人たちが、名古屋には多いということではないかと思います。パネラーのみなさんが席についてしばらくすると、それまで晴れていた天気が急に曇りだし、雷鳴まで轟く天候になりました。厳しくなるであろう、これからの社会情勢を暗示するかのようです。

 はじめに、実行委員長の長谷川さんが、貧困が階層化していること、特に福祉や年金における母子加算老齢加算の切捨てが始まり、セーフティーネットもザル化しつつあること。みなが苦しんでいることの実態を知る必要があるので、この集会を開催したことを述べられました。そのあと、それぞれパネラーが、自らの取り組みや体験をもとに、発言をしてくれました。

 はじめに、女性ユニオンなごや執行委員長である坂 喜代子さんが発言されました。この組合は、昨年の「働く女性の全国センター」結成と、それへの参加を契機に立ち上げられたもので、規制の労働団体などでは、なかなか取り組んでもらえない「女性・非正規労働」の問題を、とくにジェンダーの視点を大切に、とりくむための組合として旗揚げをされたものです。労組といっても、専従の人をおく余裕はないので、携帯をみんなで持ちまわって対応をしているとのことでした。ご自身も、銀行パート労働者としての28年間働いてきており、その苦労をお話しになりました。同じ仕事内容、同じ労働時間はたらいても、正社員と非正規雇用者とでは、とてもおおきな給料格差がある。

 また、最近の法改正で、坂さんの職場でも、非正規雇用の人が、正社員として雇用されるチャンスができたのですが、その法律が効力を発揮する直前に、坂さんの職場は、非正規雇用の人が正社員になるためには、正社員でももっていないような高い資格の条件を再設定したそうです。ボーナスは、昔は6万8000円だったものが、現在は1万8000まで下がったそうです。最近になって非正規雇用の問題が、若者の問題となってきたので、クローズアップされているものの、女性のパート労働者は、ずっとそのような状態で苦しんできた。女性ユニオンをはじめて、あらためて女性・非正規の労働者の逼迫した状況を再確認したとのことです。シングルマザーの相談などが多く、中には、なきながらの相談も多いそうです。

 職場でのパワハラ、嫌がらせなども多く、課題は山積みとのことでした。今度の国会は、労働国会と呼んでも良いほどのもので、この流れを、このまま放置してゆくと、規制緩和によって、私たちの子や孫の世代には、皆、非正規雇用者になってしまう。正社員の人たちは、非正規雇用の人たちの声を無視してきた。いま手を取り合って声をあげないと、大変なことになってしまう。ニュージーランドの例をみればわかるように、一度悪化してしまった雇用体系をもとに戻すには、たいへんな時間がかかるし、痛みを伴う。シングルマザーでも、子供が1人2人抱えても食べてゆけるような賃金を確保しなければならないと、訴えられました。坂さんは、いま問題になっている非正規雇用の問題について、社会が騒ぎ出すはるか以前から、ずっと苦労をされた人だと思いました。特に「このままでは、子や孫の代には、みんな非正規雇用になってしまう」という訴えには、切実なものを感じました。

 次に笹島診療所パート職員の、藤井克彦さんが発言されました。笹島診療所とは、失業や病気で困っている高齢者、日雇労働者などに、医療面からの支援を行っている非営利団体です。藤井さんは、まず、ホームレス状態にある人たちで働いている人たち主な仕事は、地域によって対象は違うものの(東京なら雑誌、名古屋なら空き缶など)、廃品回収がもっとも多い。そういう仕事をしている人たちの平均日収は1000円、平均月収は3万円だと話されました。みんな、やれることをやって生き抜いて、死んでいる。怠け者ではない。また、高齢化が進んでいるのも深刻な問題である。ホームレスとなると、飢え、寒さ、入浴や洗濯などで困る。公園などで洗濯をすると、そこではするなと排除をされる。自分がホームレスになると、どういうことで困るかということを、想像力をもってほしい、と訴えられました。

 仕事の中で、特に現場作業などは、暴力団関係の人たちが人集めをしており、未払い、労災の問題などが多数ある。季節によっては仕事がない。不況だけが問題ではなくて、規制緩和によっる雇用体系の変化も原因のひとつだ。一方、社会制度からの排除も進行している。日雇い労働者のための失業保険があり、その届出のための印紙は雇用主が支払うことになっているが、印紙をだしてくれない業者も多い。生活保護の運用についても、問題がたくさんある。生活保護は、働けるととダメ、住居に住んでいないとダメ、若いとダメ…というイメージが浸透しているが、本当は、そうではない。資産労力の活用も、絶対的なものではないし、野宿者でも、現在地で申請できる。よく施設にはいれといわれるが、これもおかしい。かつては、障害者もみんな施設にいれられていた。それと同様に、ホームレスを施設にいれるという行為には、おかしな部分がある。今年の2月に発表された全国ホームレス調査によると、大幅に野宿者が減少しているとの報告結果がでているが、強制代執行や強制撤去などにより、表面的には確かに公園での生活者は減少しているが、周辺地域や河川は増加している。

 特に名古屋市では、万博の時期に、白川公園で定住生活している人たちばかりを施設などに収容して、路上で生活している人たちは施設に入れなかった。これなどは、もっともわかりやすい例で、目に見える形のホームレスを減らしただけで、実際には周辺化を招いただけだった。行政によるこういった施策は「ホームレスは排除してもよい」という意識を人々に植え付けてゆく。ホームレスの襲撃事件を起こした子供達は「町をキレイする」ため「社会のゴミを片付ける」ために、ホームレス襲撃を行ったと証言しているが、これは、行政の対応が生み出した偏見ではないか、と強く指摘されました。

 ヨーロッパなどでは「ホームレス」とは、路上や公園などに住んでいる人たちだけをさす言葉ではない。一時的に知人の家に宿泊している人、安い簡易ホテル、一時的滞在施設に入所している人、これからホームレスになる可能性のある人などの安定した生活をできない人たちを含めて「ホームレス」と呼んでいる。貧困は社会的な排除の結果であり、貧困の問題は個人的な努力不足によって起こる問題ではなく、あくまでも社会的経済的な問題だということ。「なまけもの」だからホームレスになるわけではない。路上から野宿者を排除しても何も問題は解決はしないと話されました。藤井さんは、さまざまな資料を駆使し、具体的な事例をもとに話され、学者のような方だという印象を持ちました。とくに、ヨーロッパでは、ホームレスという言葉を「目に見える」路上生活者だけにとどめない、という点は、とても大切なことだと思いました。

 最後に、わだちコンピューターハウスの小島 功さんがはなしをされました。わだちコンピューターハウスは、コンピューターを駆使した作業を受注する障害者の授産施設です。とても成功した授産施設で、1996年以降は年間売り上げ1億円、平均工賃月10万円を超えることもあるところです。小島さんは、集会に出るにあたって、なぜ弱い立場の人たちが増えているのかについて、考えたことを話されました。いま、この日本がアメリカ型社会に移行しつつある、競争社会になりつつあるので、弱い人が負け組になる。しかし、地道に働いている人が底辺を支えているのは、まぎれもない事実。社会を支えているのは私達であることを忘れないでほしいと力強く訴えました。昨年の4月か「障害者自立支援法」による施設利用の1割負担がはじまった。どれだけ働いても利用料金を払えという。私達の施設は、全国でもトップレベルの成果をあげているが、全国の作業所の平均月給は1万円、同じ時間働いても1万円。

 1割負担による施設の利用料金は1万5000円。食費も払うと1万5000円。1万円稼ぐのに、3万円かかってしまう。これでは、授産施設で働く多くの仲間の労働意欲の減退へと結びついていてしまうので、抗議行動を起こした。厚生労働省へも講義行動に赴いた。とりくみは成果を挙げており、名古屋では利用料がとても低額で抑えられているが、他の地域ではかわらない。自分達のような障害者は、一般企業に面接にいっても門前払いだ。仮に一般企業に勤めても、人間関係で苦労して、施設にもどってくる人が多い。わたしたちは先人達の闘いの成果によって現在の段階まできたと思っている。現在も、社会運動に積極的に力を入れて動いているのは、わたしたち障害者だ。先程の藤井さんの報告の最後に、貧困は個人問題ではなく、社会的経済的原因によるものだとあったが、自分もそのことに賛同する。このまま何もせずに放置しているとなしくずしで、三角形の底辺が、どんどん大きくなっていってしまう。労働対価を得ることと、生存権を保持する事を、強く訴えてゆかなければならない。

 そのためには、弱い立場の人達が、お互いに手を取り合うことが大切だと訴えられました。小島さんは、やや重い障害があるので、マイクをもってもらって話をされていましたが、語られる内容は、とぎれとぎれではありますが、とても力強く、たいへんわかりやすかったです。人前で話をするのに慣れている方だという印象をもちました。小島さんと、わだちコンピューターハウスの取り組みは、困難な状況の中でも、しっかりとした行動を繰り返しつづけてゆけば、獲得できるものがある事を示してくれていると思います。

 パネラーのお話のあと、休息と交流タイムということで、30分ほどの休憩時間がもうけられました。会場に集まった人たちは、お互いの状況について話をしながら、実行委員会の用意したお茶とカンパンを食べました。実行委員の長谷川さんによると、貧乏人集会なので、あまり良いものは用意できなかったのですが、炊き出しなどで、毎回、なかなかおいしいと評判のカンパンだそうです。実際に記者も一包み食べましたが、たいへんおいしかったです。どこかで備蓄されていたものの、保存期限切れの品物のようでした。交流会のあとは、多重債務者による苦労を経験された方の発表や、弁護士の方の報告、各種団体の方のアッピールなどが続きました。ここでは、多重債務の方のお話と、弁護士の方のお話の2つだけ報告します。

 多重債務で苦労をされた方は、匿名です。はじめ、消費者金融でお金をかりたときは10万円。すぐ返済をした。信用ができた、と言われて、限度額が30万、50万と増えてゆく。そういわれると、つい借りてしまう。最初はなんとか返済していたものの、そのうちずるずると増えてしまって、300万以上となる。最後のほうは、1件の返済を月に2回くらいするようになってしまっていた。50万円、29%で月に1万2000円。それだけ払えばよい、とはいっても、それではいつまでたっても元本は減らない。最後のほうは、友達のお金を返済にあててしまったりしてしまう。毎日が不安で、いつも誰かに電話をしていた。それは、いざというときに、誰かにお金を借りるためにつながりをつけている行為で、非常に利己的な動機でした。そのうちヤミ金にも手を出してしまい、電気代、水道代も払えずに真っ暗な部屋の中で、ヤミの取り立てに怯えていたそうです。

 弁護士に相談して、法定金利で再計算をしてもらったところ、借りていたものの半分は、すでに過払いであったとのことでした。このとこから、グレーゾーン金利というものが、いかに破滅への道に続いているのかを思い知ったそうです。グレーゾーン金利消費者金融金利を下げると、融資審査が厳しくなり、お金をかりられなくなった人がヤミ金にはしり、ヤミ金が勢力を拡大するのではないか、と心配している国会議員がいると、新聞で読んで記憶があるそうですが、私は、それは間違っていると思う、と強く訴えられました。会場から発言をされた森弘典弁護士は、賛同人にもなってくれている方です。

 わたしは、豊田の偽装請負の件などにかかわったのですが、いま偽装請負が大きな問題になっています。派遣労働をして仕事をさせるのですが、労災を認定すると大変なので、大怪我をしても、なかなか認めません。また、正社員が突然、請負業務の立場にさせられてしまったということもありました。いまコムスンの問題などがマスコミにとりあげられていますが、福祉は競争原理になじまないものなので、福祉業務を民間に委託するのは、不安がのこります。生活保護を受給している人が、交通事故でお金が出たところ、それを全部もっていったという事件がありました。不服申し立てをすると、すく返還されたのですが、最近、こういう事件が多い。

 福祉は、たいへん入り口が狭くなっています。認められても少なく、何か理由をつけて返せといってきます。これは、まさに社会問題です。自分に、いつ降りかかるかもわからない問題です。と、自らの体験をもとに話されました。ほかにも、様々な立場の人たちから意見が出され、時間が足りないほどでした。集会の最後は、「生き残ってまたあおう。横にひろげて結び合おう。反貧困の連携を秋の集会につなげよう」の集会宣言で幕を閉じました。好況の名古屋で行われた、あたらしい取り組みの今後に期待したいと思います。

笹島診療所
http://www4.ocn.ne.jp/~sasasima/index.htm
AJU自立の家 わだちコンピュータハウス
http://www.aju-cil.com/wadachi/wadachitop.php

(Esaman)