瀕死の「生活保護制度」を救え!(2)各地からの報告(JANJAN記事)

nagoya_p_net2007-12-20

Esaman2007/12/24

http://www.news.janjan.jp/area/0712/0712170416/1.php

東京の取り組みと、名古屋での取り組みは、設立の経緯は若干違うのですが、目指している方向性は似通っている部分があるのだと思います。いろいろな立場の人達に声をかけて、当事者も取り組んで楽しめる運動を展開してゆくことも大切なのだと再確認した思いです。

前回記事
瀕死の生活保護制度を救え! (1) ―「水際作戦」窓口の実態―

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 休憩中に、この日の催し物に向けて発売された本が2冊あるとのことでしたので、それを見に行きました。「市民の力で貧困を絶つ」「生活保護、ヤミの北九州方式を糾す」の2冊です。

 「ヤミの北九州」の著者の方からメッセージをいただいたので掲載します。



この集会にあわせて発行された「生活保護、ヤミの北九州方式を糾す」。北九州市で行われている非道な福祉の実態について迫る力作。
■「ヤミの北九州」の著者、藤藪貴治さん
 悪名高い北九州の福祉ですが、生保の申請を受け付けさせないためのフローチャートをつくったのもここでした。このフローチャートは、1967年、厚生省の天下り役人が北九州に来て、40年かけて作りあげたものです。そして、この北九州方式は、全国に広がっていきました。現在の、窓口にいっても生保を申請させない、通っても辞退させる、申請にきた人を貶める方式は、北九州でつくられたものでした。また、マスコミで取り上げられた餓死をした人の話は、たまたま取り上げられたから有名になっただけで、北九州では日常的に起こっていることでした。

 たとえば、北九州では、ひとつの福祉事務所で、わかっているだけで、申請拒否によって年間5人の餓死者・自殺者が出ています。単純に計算すると、そのような餓死者・自殺者は、年間30人出ていることになります。餓死した場合は、わかりやすいこともあってクローズアップされますが、自殺の場合は取り上げられにくいのです。自殺した人達も調査してゆけば、申請拒否や強制辞退による死者は、もっと沢山いると思います。この本を出すことで、北九州の実態を知ってほしいです。またそのような問題が、巧妙に見えなくされているだけで、北九州だけの話ではないことを多くの人に知ってほしいです。

■愛知生活と健康を守る会連合の小山健一さん
 現在、生保だけでなく、いろいろな福祉の予算が削られようとしています。はじめに削る話があって、そこからどこから削るか、という話になります。生保の世帯には高齢者が多いので、そこから削るという話になります。削ることをきめてから、削る理由がでてくる。高齢者の次に多いのは母子加算と障害者加算です。愛知の場合は、8630世帯中、4068世帯が高齢者の世帯で、半数近いです。私は長く団地で民生委員をやっていました。いまはもう辞めていますが、いまでも、いろいろと相談をされることがあります。

 たとえば、団地に80歳のおばあさんが住んでいます。共用区画の掃除などがあるわけですが、それに出ないと、いまは罰金として1000円3000円とられるわけです。高齢加算がなくなったので、1000円を出すのが大変だからと組長にいうと、ならばゴミをすてるんじゃないよと言われた、と相談されるわけです。組長も他の人への説明がつかないので言っていることで、意地悪ではない。おばあさんも本当にことを言っているだけで怠けているわけではない。

 そこに何が残るか? お互いの不信感が残っていきます。あるご老人は、高齢加算がなくなると、友人のお葬式に香典が出せない。安いものではないからです。香典をもってゆけないので葬式に顔を出さずにいたら、あとから他の友人に「なんだ生きとったのか、死んだと思った」といわれるわけです。そうして、友達づきあいができなくなってゆく。ご老人にとって友人とのつきあいはとても大切なものです。そういう大切なものにヒビが入ってゆく。高齢加算がなくなると、10万のものが万になります。みんな、毎日のコーヒーをやめたり、おさしみをやめる、などした節約して対応している。

 ご老人の多くには医療費が高いです。医療費が高いなら生保をとるかと薦めても、取らない人が多い。「生保をとる」ということへの、強い偏見があります。役所も相当に悪いです。たとえば、福祉の現場を管理する上司には、出向でやってきた福祉の担当ではない人が沢山いる。そういう人は現場がわかっていないし、現場のいうことも聞かない。上からの支持をそのまま実行する。そして水際作戦のようなことが起こる。愛知ではこういう問題もあります。

 障害年金の2級と、厚生年金で3級の両方をもっている人がいます。この場合、厚生年金のほうが優先されて、金額が減ります。ですが愛知県では、そういう人でも障害者加算が適用されていた。一部ではいまでもそうです。これは役所の側の法律の読み違えかなにかで、受給者側の問題ではありません。これにたいして、たとえば50万円の過払いを返せと突然言い出す。そんなの払えませんし、これは役所側のミスなんです。払えないとなると、ご丁寧にも月1万ずつ払って何年で返せという書類を作ってきたりする。こんな仕事をするのは間違っています。



「市民の力で貧困を絶つ」この本も集会にあわせて発行されたもの。
■笹島診療所の藤井さん
 32年前、オイルショックの後、笹島・名古屋駅周辺で、日雇いの人達十数人が餓死・凍死をしていると報道されました。背景は失業です。私達は、「日雇労働者を見殺しにするな!」というスローガンを掲げて、炊き出しを行いました。そして野宿を強いられる日雇労働者の実情を知り、それに応じて色々な活動をはじめました。そして1985年に笹島診療所を設立しました。行政による調査を見ても、野宿を強いられている人達の最長職、野宿にはいる直前職を調べると、非常に不安定な雇用形態が増えていることがわかります。非正規雇用が4割を超えている。

 野宿の最大の原因は、失業・失職です。就労の場所や社会からの排除、使い捨て、そして産業構造の変化で社会全体に非正規が増えていることなどがあります。最後のセーフティネットである生保は、働く能力のある人でも、努力しても職が見つからない場合は受けることができます。若い人でも仕事がみつからない場合は受けることができます。これは憲法にも保障されている、当たり前のことなのですが、それを裁判で明らかにしたのが私がかかわった林訴訟でした。体調が悪くて入院して生保を開始、退院後スグに廃止になる例が多いですが、これも間違っています。退院しても安定した生活がおくれて将来の見通しが出てくるまで、保護を継続する必要があります。ホームレスの場合、行政はなぜか施設にいれたがります。これもおかしい。大阪などでも取り組みがありましたが、原則は居宅保護なのに、なにかと理由をつけて施設にいれたがるのはおかしいです。

 私達が他にも頭を悩ましているのは、生保をうけられる状態の人が、それ以外の方法で誤魔化されてしまうことが多いことです。緊急宿泊施設や一時保護所にいれることもそのひとつ。ひとつの部屋に2-3人で泊まるところもありますし、現金は一切でないところもあります。一時保護所は不服審査請求をしてやっと1日に230円出るようになったのです。病院を退院して、収入がないなら生活保護を継続することは法律で決まっています。ですが、こうした所にいれられることもあり(その際生保を辞退させられる)、これが最低限度の生活を持たしているか疑問です。福祉事務所の都合で、こうした法外援護にしたり、生活保護にしたりする運用をされると、生活保護制度が何であるかがわからなくなってしまいます。

 同じ状態の人が、役所の都合で生保になったり、ならなかったりする。これでは生活保護とはなんなのかが、まったく理解されなくて当たり前です。ホームレスの人をあつめてアパートなどに住ませて、生保を申請して、お金を取る貧困ビジネスも問題です。お金の大半をとられてしまいます。このようなことを起こさせないために、行政がしっかりと指導して、アパートにいれる必要があります。私は本来、生活保護という制度は「あったかい」ものだと思っています。生活保護が制定されたときの厚生省保護課長の小山さんの解説書を読んでそう思います。そういった生活保護の本来の精神を、運用の面でもっと反映してほしいと思います。運動をしていくなかで、名古屋もすこしずつマシになってきています。運動をしていくなかで不服審査請求は有効です。多くの法律家に福祉事務所にいって現場の現実を理解してほしいと思います。また不服審査請求をもっと活用してください。生保に関しては、誤った解釈がまかりとおっています。このような現状を、みなでかえていきましょう。

滋賀県野州市消費生活相談員の生水裕美さん
 私は役所で契約社員として働いています。契約社員ですので、出世のはなしもありませんがしがらみもありませんので、いろいろな所と連携して活動ができます。生活保護の申請や、債務の整理をしていくには、根気強さと時には強引さも必要だと思います。相談者の債務の情報をキャッチしたら、いろいろな部署で連携して対処をする必要があります。大丈夫そうにみえても、相談者が自殺してしまうこともあるので、時には強引に対応することが必要です。自分の親も生保をとることには偏見をもっていました。この偏見をなくしてゆくのは、行政の責任だと思っています。

■中村社会福祉事務所の小池直人さん
 「水際作戦」というと、誰かかどこかで指揮をしているという気がするので、実態は少し違うかもれません。でも現実にはやっていることです。たとえば家賃。いまの生保の家賃は3万5800円までなのですが、それよりも少しでも高いと、住む家をかわってから来いと言う。そんなの無理ですよね。ですが、役所も予算も人員もないなかでやらされているので「自粛」せざるをえなくなっているところがあります。作戦というよりは、それぞれの現場で生活保護制度を歪曲しているのだと思います。これは「作戦」よりも悪質です。作戦なら誰か司令官がいるので、その人を通さなければならなくなりますが、それぞれ個別に現場でやっていることだとすると、なかなかなくなりません。中村区役所も、むかしは生保の申請書を出すこともできなかった、いまでは申請を出してもらえるようになりました。

 生保の相談でくる方の半数くらいは多重債務者です。私が相談されたケースでもそうでしたので、サラ金から借りる前に何故こなかったのですかと聞いて、まえに中村に来たが断られたと聞いて絶句したことがあります。無料法律相談を紹介しても、30分では説明できずにうまくいかない人もいます。ある日訪問してみると、いなくなってしまっていて、ポストには請求書や督促状が沢山ある、ということになることもあります。生保の実際としては、多重債務の相談も同時にしてゆく必要があるので、中村では昨年11月から司法書士と連携して対応しています。福祉事務所がすべて悪いわけではありません。しかし、いまでも「水際作戦」をやっているところはあります。自治体によって法律が違うと言う人もいますが、そんなことはありません。生活保護に関する法律はひとつしかありません。すべて同じものです。「水際作戦」のようなことをしている所も、していないところも、根拠となる法律の条文はすべて同じものなのです。

 生活保護法律家ネットワークの人達が壇上に並んで、それぞれの地域での取り組みや今度の計画など話してくれました。いくつかを簡単に報告します。

「住所がないので申請できずに追い返された人の相談に乗り、申請を認めさせました」
「あの北九州で申請から13日で認められました」
「胸を張って生活保護で助かったといえる社会を目指したい」
「東海生活保護利用ネットワークを作ろうと思っています。来年1月をめどに開始したいと思っていますが、準備段階ですでに相談が入ってきています」



壇上で挨拶をする生活保護法律家ネットワークの人達。全国規模でいろいろな活動を展開している。
■集会の最後に、反貧困ネットワーク代表の弁護士、宇都宮健児さんが話をしました。
 私達の反貧困ネットワークは、3月にこの問題に取り組んでいる個人が集まって集会をして、7月に貧困に取り組まない政治家はいらないという集会を開いたことが結成の10月に正式に発足して、11月に院内集会を開きました。いろいろな人達の合流によって、運動は拡大しています。来年の3月には、大きな企画として「反貧困まつり」のようなものを、地域の中学を借りて開催したいと計画しています。みなさんの参加をよろしくお願いします。

 貧困の問題は、みえにくくなっています。格差社会については、その良し悪しには議論があるわけですが、貧困問題にたいしては誰も文句がいえない。まず貧困の実態を告発して実体化することが大切です。そのためには、当事者の話をもっと聞くことが大切です。私達の反貧困ネットワークは、個人参加で運営されています。一緒に活動することの少ない、連合や全労連のひとたちも一緒に活動してくれています。貧困に反対することに違いはありません。また、会議でいろいろと話し合いをしていくなかで、互いの理解が深まってゆくという効果もあります。反貧困の運動を、みなさん一緒に盛り上げてゆきましょう。

 東京の反貧困ネットワークの人達の話を聞いて、反貧困の運動を、多くの人が参加できるようなものにしていこうという姿勢は、広がりのもてそうな、なかなか面白いものだと思いました。名古屋での反貧困ネットワークの活動も、野宿の仲間達や関係者に「お祭りのようで楽しいのがよい」という声がありました。東京の取り組みと、名古屋での取り組みは、設立の経緯は若干違うのですが、目指している方向性は似通っている部分があるのだと思います。いろいろな立場の人達に声をかけて、当事者も取り組んで楽しめる運動を展開してゆくことも大切なのだと再確認した思いです。