映画「蟹工船」を観て、生き辛い社会を語り合う「カニコー」鍋開催。

Esaman2009/01/22

 映画「蟹工船」を観て、「カニ鍋」を囲んで、いまの生き辛い世の中を話し合う会が名古屋で開かれた。職業も年齢もバラバラだが、総じて低所得の15、6人が集まり、カンパで集まったお金で作った鍋の味は上々、体験談で会合も盛り上がって大成功だった。

http://www.news.janjan.jp/area/0901/0901210844/1.php

 「『蟹工船』鑑賞会…カニ鍋を囲んで『蟹工船』を語ろう。in 名古屋」が1月17日、「生・権力ガク会(なまけんりょくがくかい)」の主催で開催されました。この「ガク会」(まじめな「学会」と間違われないように、「ガク」なのだそうです)は、4月に名古屋で開催された「LOVE&ビンボー春祭り」を契機に結成されたもので、権力や社会矛盾を笑い飛ばすためのお楽しみ企画です。なにか楽しいことを一緒にやるため、友達をつくるために結成されたものです。

シネマスコーレのチラシ置き場におかれたカニコー鍋のチラシ

 共催相手として、P8貧困者末端会議、LOVE&ビンボー作戦本部、ビンボーアースデイ準備委員会なども名前を連ねています。ここしばらく、名古屋を中心に繰り広げられている、アヤシイ企画で暗躍している、有象無象な人たちが集まっています。

 「カニコー鍋」は、名古屋駅裏手にある小さな映画館「シネマスコーレ」が、モノクロ映画「蟹工船」を上映していることに便乗して企画されました。同映画館で「蟹工船」を観たあと、おなじく名古屋駅裏手にある「いこいの家」で鍋会を行う企画です。

 「いこいの家」は、古い民家を借りて、普段はホームレスの人など、いろいろなひとが過ごすことのできる施設として開放されています。また、笹島界隈の多種多様な活動団体が会合に使ったり、緊急の時には宿泊施設になったり、大きなイベントの際の遠来のお客のゲストムールになったりと、さまざまな場面で活躍している「寄り合い所」のような施設です。普通の古い民家なので、すこし、わかりにくい場所にあります。


 ・LOVE&ビンボー春祭り アースデイあいち2008 開催
 ・『あなたが生きている今そこが、世界の中心なのだ』P8貧困者末端会議 in 大輪祭り

上映後、鍋への参加者が集結中

 さて、この企画、まずはシネマスコーレ前での待ち合わせから始まります。シネマスコーレは、名古屋駅裏の、すこし小さな路地のようなところにある映画館で、アングラな作品を上映することの多い、「その筋」では有名な映画館です。

 今回の企画、シネマスコーレでの上映に便乗したものなので、シネマスコーレの人には話が伝わっているものと思っていましたが…。実は、まったく伝わっていないとのこと。ですが、企画の内容を話すと、スタッフの方は笑ってチラシを映画館のチラシ置き場の机に置いてくれました。

 アホな企画だと笑われたのかもしれませんが、これにはひと安心。シネマスコーレでは、蟹工船を上映している同じころ、ドヤの労務者の実態を描き、暴力団により監督が2人も殺されて、なかなか上映されない映画 「山谷─やられたらやりかえせ」も上映されているとのことでした。あの『靖国』も上映中です。要チェックの映画館です。

 『カニコー鍋』のチラシを大きく伸ばしたたものを持って主催者が待ち構えていると、ボチボチと参加者が集まってきます。集まった人たちは10人ほどですが、企画を知ることになった経緯は、口コミ、メールニュース、FAXニュース、手紙など、いろいろな経緯だったようです。年齢層もバラバラ、職業もバラバラでした。上映時間になり、映画を観ました。

カニコー鍋の材料。低予算企画なので「おつとめ品」が目立つ

 今回上映されている「蟹工船」は、1953年のモノクロ作品で、小説の『蟹工船』とは、ややストーリーが異なるものです。ここでは、作品の荒筋などは省いて、印象を少しだけ書いておきます。

 ◇登場人物の背景、とくに、いろいろな経緯の「貧困者」が集まっていることが、よく描写されていました。
 ◇特に船内のゴミゴミした感じ、不潔な感じが、丁寧に描写されていたと思います。
 ◇時代的なものでしょうか? 役者による演技に重きがおかれていて、役者たちの演技も、昨今の作品と違い、力が入っているという感じがしました。
 ◇船内のというべきか、世代としてというべきか、人が集まったときに、歌ったり踊ったりすることが「娯楽」となっていた時代(世代)が描写されており、印象的でした。
 ◇原作の「蟹工船」の知識がないと、少し消化不良になるかもしれません。
 ◇「バット2本」の誘惑というか、存在感を、もう少し強く書いてほしかったです。
 ◇弾圧されたあと、再び決起するまでの話が描かれていないのが、残念です。

 さて、映画を見終わった後は、いよいよ「カニコー鍋」です。会場は、なかなか分かりにくい場所なので、筆者が先導して移動しました。シネマスコーレのある場所は、食堂などもあり、少しは街の雰囲気がありますが、少し道をそれると、一気にさびしい感じとなります。街灯の少ないエリアを少し進むと、中村区役所の近くに「いこいの家」があります。

 さっそく、市内を走り回って確保した「活きガニ」や野菜などの食材を、みんなで調理します。ここで問題が発生。

 貧乏人の集まりだからかどうかは分かりませんが、「カニ鍋」を食べた事のある人が、ほとんどおらず、どうやってカニを調理してよいのかがわからず、少し混乱しました。最終的には、安い活きガニが見つからなかったときに誤魔化すために買っておいた「カニ汁用のスープ(カニエキス入り)」の裏面に書いてあった通りにカニをさばいて準備OK。さばいたカニの心臓が生きていて一同仰天。入れる野菜とカニの順番で意見が分かれる、などの障害を乗り越えました。

 また、解体係りの人は、新鮮なカニであったために、解体していて手にヌルヌルしたものが付き、なかなかとれなかった、こんな作業を一日中やっていたら気が狂うよ、とのことでした。こんなことからも「蟹工船」での労働の様子を、ほんの少し想像することができました。

 そうこうしているうちに、さらに何人かが合流、参加者は15、6人になりました。思いつき企画として始めたものながら、思わぬ大所帯になりました。

 鍋を囲みながら、順番に自己紹介。無職の人、元ホームレス、OL、団体職員、非常勤職員、日雇い労働者、生活保護受給者、会社員、契約社員、鍛冶屋、教師など、いろいろな人がいました。ですが、みなさん低所得という点では、ほぼ共通しているようでした。平均所得は、生活保護基準と、似たようなモノなのではないか、という話で盛り上がっていました。中には、明らかに生活保護水準よりも所得の低い人も、何人かいました。

 また、路上鍋の話、路上生活の話、活動の話、職場のヒドイ話、派遣切りの話、非常勤イジメの話、米の炊き方、バレンタインデー粉砕の話、チョコ供養、映画の話、名古屋市の公金の使い方など、いろいろな話題で盛り上がりました。肝心の「カニコーの話」は、あまり出なかったようでした。

 こうした中で、特に印象に残った話としては、

 ◇いつも、仲間と路上鍋をやっています。駅前とか公園とか。「野宿」とか「野糞」みたいな意味で「野飯」と呼んでいます。「野飯」は、いろいろな人と出会えて楽しいけど、冬場はさすがに寒くなってきたので、屋根のあるところでやりたい、という話をしていて、カニコー鍋の計画が持ち上がって、よかったです。やっぱり、屋根があるというのは、いいことですね。やって楽しいことを続けていきたいです。(無農薬農園を作っている人)

 ◇蟹工船は、自分が若いころに流行っていた映画です。でも当時は、政治的なメッセージが強すぎるというか、あからさまというかで、観たいと思いながらも、結局観ていませんでした。最近、時代がめぐりめぐって、若い人の間でも、再び蟹工船のことが話題になってきていると聞いています。今日は、試しに来てみたのですが、若い人がたくさんいて、本当なのだと思いました。来てよかったです。あの映画には、いまでは考えられないほど、いい俳優が出ています。観られてよかったです。(教員)

 ◇「初めてカニ鍋を食べました。外で食べるよりも、いいものが食べれて、安くていいです。こうやって集まって鍋を食べる機会が、最近はなくなってしまった気がします。(無職)

 鍋は当初、「カニ汁用のスープ」を使おう、という話でしたが「本物のカニだけの味を知りたい」という要望が出て、活きガニと野菜だけで鍋を作りました。さすがにおいしかったのか、一瞬で鍋はなくなり、次はカニ汁用のスープの鍋(ボイル蟹入り)、タラのアラ鍋、ブリのアラ鍋と続いて作りました。自家製の甘酒や豆腐、ハンゴウで炊いたご飯も出て、最後は「ブリカニ雑炊」をみんなで食べました。半分くらいは、捨てる部分で作った鍋でしたが、味は大変よく、好評でした。

 このカニコー鍋のカンパは「累進課税」で行われ、所得の高い人(自己申告)が、たくさん出してください、という呼びかけで行いましたが、本物のカニも買え、おいしいし、外で食べるよりも安い、ということで、それなりにカンパが集まり、なんとか赤字にはなりませんでした。

 次は「バレンタインの頃に、なにかをしよう」という話が出ていました。


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みなで準備中。蟹の加工が大変だった。すこしだけ蟹工船の気分みなで準備中。蟹の加工が大変だった。すこしだけ蟹工船の気分
「いこいの家」の玄関に張られた鍋の案内。いつもは11〜4時の間、開いている「いこいの家」の玄関に張られた鍋の案内。いつもは11〜4時の間、開いている
出来上がった鍋を囲む出来上がった鍋を囲む

蟹鍋。このカニはロシア産。カムサツカ沖から来たのだろうか?蟹鍋。このカニはロシア産。カムサツカ沖から来たのだろうか?
食べた後のカニと、タラ鍋。カンパにはお札が多かった食べた後のカニと、タラ鍋。カンパにはお札が多かった
鍋が煮えるのを待ちながら話し合い。年齢も様々だ鍋が煮えるのを待ちながら話し合い。年齢も様々だ