愛知発「働いているのに、どうして食べていけないの?」〜ワーキング・プアを考える(JANJAN記事)

nagoya_p_net2008-09-26


http://www.news.janjan.jp/area/0809/0809250117/1.php

Esaman2008/09/26
現在、消費者庁をつくるという話が進んでいますが、そういった視点でネットカフェ難民など、ワーキングプアの問題を、総合的に考え政策を作る省庁が必要だと思います。貧困問題が、国会や選挙でも重要な課題になっていくような問題にならないといけません。

シンポジウムの様子。
 9月15日、愛知大学車道校舎で、日弁連人権擁護大会、プレシンポジウム「働いているのに、どうして食べていけないの?〜ワーキング・プアを考える〜」が開催されました。会場となった愛知大学の車道校舎は、何年か前に大規模な工事が行われて、昔からあったクラブハウス棟などが整理されて、なんとも近代的な装いになった建物です。

 通りから、校舎がすこし内側に入った所にあるので、どこから入ったらよいのか、イマイチ分かりにくいところです。愛知大学には、この車道校舎のほかに、豊橋にも校舎があります。豊橋校舎は、昔の兵器工事用の跡地に建てられていて、電車の駅が校門の前にあるという、なかなか変わった作りをしています。この豊橋校舎は、昔ながらのクラブハウス棟があり、ビンボー学生がのびのびできる大学、という雰囲気を醸し出しているのですが、愛地球博の笹島会場跡地に、移転の話があるようです。

ワーキングプア当事者の話

○グットウィルで働いていた人の証言
 メールで募集している話と、実際の労働が著しく違う。簡単な軽作業で誰でも運べるもの、という説明だったが、実際には200kg近い台車を何度も往復して運ぶ仕事で、誰でも簡単に運べるようなものではなかった。女性にはとても無理な仕事でした。また、実際に一生懸命にやっているのに「とっととやれよ」と言われることも多く、人間扱いされていない感じを受けることも多い。労働局への提案としては、労働にみあった給料が出るようにして欲しいです。特に工場内での仕分け作業などは、とても大変な仕事も多いですが、自給が800円もない場合も多いです。

派遣社員と世紀社員の格差について。
 日本ガイシ派遣社員として7年間働いています。仕事としては、工場で使用する材料の認定試験をしています。正社員と同じ仕事内容ですし、工場内でも重要な仕事です。粉塵にまみれて粘土をこね回すような、3K職場の代表のような内容です。毎回、手探りで仕事をしています。実際に自分も体を悪くした社員の後釜として働くことになりました。
 昨年末、契約を終了するという話が派遣元の会社にされたことを期に、職場のみんなで労組を結成して交渉をもったのですが、一緒に団交をしていた仲間たちは、会社側の冷たい態度に次々と去っていってしまい、運動もうまくいかなくなってしまいました。

 春、秋に防災訓練があるのですが、その訓練の際のサイレンは、自分たちが作業中には全く聞こえませんでした。ところが、正社員である作業責任者だけは、いちはやく避難してしまっていなかったので気がつくことができました。契約社員である私たちは、そのあとしばらくしてから気がついて、点呼場に向かいました。自分のグループには、契約社員が30人ほどいますが、その点呼の際に、名前を呼ばれない人も何人かいる始末。呼ばれなかった仲間は「自分は変死体だから呼ばれないんだ」などと諦めて言っていました。

 このような状況は、いざ災害が起こったら大変なことになると思うのですが、上司には言っても無駄だという雰囲気が場を支配しています。それでも、なんとかしようと言ってみた人がいましたが、上司は「まぁいいだろう」と言ってなにもしてくれませんでした。血液型や住所、氏名の書かれた、災害時のための個人識別カードというものがあるのですが、この訓練の時にはそれすら配布されていなかったので、どうでもいいような扱いをされていました。

 また、食事代も、派遣社員は正社員とは待遇が違います。配られる食券が色分けされていて、契約社員は、額面の倍額を払います。

 休憩所が粉塵まみれなので、まったく休憩することができない、という相談をしたところ、主任は「1日中、マスクをしていればいい」というアドバイスを親切にもしてくれました。もちろん何の対策もありません。労災にあったときの待遇もひどいものでした。職場の事故で指を切断して入院していたときに、麻酔を打たれて寝ているにもかかわらず、忙しいので翌日から勤務してくれと言われました。これには、さすがに医者も苦笑いするしかありませんでした。

 H-2ロケットを作る現場にいたこともあります。何年か前に事故で落ちたロケットです。あのロケットは、私のような派遣社員が組み立てをしたりしています。自分のしていた仕事は、ロケットの排気タービンの接続部に、六価クロムというドロっとした液体を手で塗りこむ仕事でした。この六値クロムというもが、どのような毒性があるかについては、よく知らないのですが、あまり知りたくないなとも思います。

●愛知労働局、白兼俊貴さんの話

 労働局では、特に若者が安定した仕事につけるように、ネットカフェ難民ニートの人たちの支援に力をいれています。このような人たちの身に起こっていることとして、仕事がないのでアパートが借りられない。アパートが借りられないので仕事がない、という悪循環を繰り返している、というものがあります。この悪循環をどこかで切らないといけません。

 その人のおかれている段階にもよるでしょうが、どこかできらないといけないことは確かだと思います。日雇いの仕事をしていると、先のことが考えられなくなります。私たちは、そのような状態から抜け出すお手伝いをしています。

 ネットカフェ難民などの現在の若い日雇いの人たちや、ニートになっている人たちは、同じような境遇の人たちと話す機会がありません。このような人たちのために、似たような境遇の人たちと出会い、問題解決の糸口をみつける場所として、あるいは、仕事を紹介するような場所として、愛知県と国(労働局)によって、ヤングワークプラザ、ヤングジョブ愛知(ジョブカフェ)、ユージャンプなどが運営されています。

 ヤングワークプラザは窓口のようなものですが、後の2つの機能は似ています。設置目的は似たようなものなのに、2つも窓口があるのは、予算のとり方の違いによるものです。これらの窓口では、だいたい、3000件/月の相談件数があります。この相談の中で、実際に就職につながったものは、150-200件/月です。少ないようにも見えますが、他の施設を利用して就職した人もいますから、この数字になっています。

 トライアル雇用やジョブカードなどの制度ももっと活用して欲しいと思います。トライアル雇用は、結構、有名なのですが、3ヶ月間の試験雇用で実際に働いてみるものです。当然、そのあとには実際に正規雇用される道がまっています。ジョブカードは、日経新聞にはネガティブな紹介がされていましたが、長期的な意味で自分のことを変えていくものです。これからの大きな課題は、やはり学校だと思っています。教育により、職業についてどんどん教えていく必要、学校との連携が必要だと思います。

 切り札はなにか……やはり当面の資金です。ですが、現在の社会状況は極めて厳しいですし、資金もなかなかないと思います。行政の制度で使えるものは、いろいろと利用してほしいと思います。就職などで悩んでいる若い人たちには、せめて、使える制度の単語だけでも覚えてほしいと思います。たとえば「トライアル雇用」「ジョブカード」「訓練手当」などの単語を覚えていれば、それをもとにインターネットで検索をすることができます。それで制度について調べることができます。行政のホームページもけっして使いやすいというわけではありません。とはいえ、インターネット上には、行政のホームページよりもわかりやすいページもあるので、ぜひ単語だけでも覚えておいて欲しいと思います。

 また、労働局として、日々いろいろと相談を受けるのですが、やはり派遣で悪質なケースも多くなっています。グッドウィルのように、実際に業務停止をするのはいろいろな条件があって実際は、多くはありませんが、悪質なところは、業務停止までできないとしても、名前の公表ができるようになったらと思っています。

 労働局に一人でいっても対応があまりスムーズではないけど、労組の人と行くと対応がちがう、という声もあります。これは対応としてはあまりいいことではありません。私のほうからも現場の人に言おうと思っています。そしてみなさんも、実際に労働局に行く前に、1本電話を入れてから行くようにしてください。やはり労働局の人間も、いきなり来られて対応するよりは、こういう件で人が来る、ということが分かっていれば、対応は少しマシになるかもしれません。


行政の取り組みについて解説する労働局の白兼さん。
シンポジウム

●小宮文人(北海学園大学)さんの話

 派遣労働には、大きくわけて、常用派遣と登録派遣があります。派遣労働という形態は、雇うものと使うものが違うので、たいへん難しい制度と言えます。監督も行き届きません。特に登録派遣は、ユーザーの要求によりその都度、派遣する、その都度、契約するものです。非正規雇用の中でも、特に雇用保障の薄いもので、不安定労働の代表的なものといえます。

 日本でも大問題になっている派遣労働について、海外の事例についてみてみましょう。派遣労働の許認可ですが、ヨーロッパでは、ドイツが許可制ですが、アメリカ、イギリス、フランスは届け出制度がありません。派遣労働の期間についての制限は、ヨーロッパでは16カ国中、5カ国で行っています。フランス、ドイツでは、社会保障について連帯責任があることになっています。派遣労働のみなし雇用については、均等処遇について、16カ国中、ドイツ、フランスなど11カ国で行われています。派遣労働が利用できる職種の制限は、16カ国中、6カ国で行われています。

 ヨーロッパでも派遣労働に対する状況は厳しくなっているようです。現地で調査をしたわけではありませんが、日本と似たような状況があるのではないかと思っています。ドイツでは、派遣労働は常用型のものだけが許可されています。一方、フランスでは、登録型の派遣労働のみになっています。産休などの代替で働く場合、必要なので登録型のもののみとなっています。

 登録型の派遣労働は、仕事のある間しか雇われません。これは生活の安定や職業訓練などを考えると、大問題であると思います。フランスでは、このようなことを考えて、一定の職業訓練を義務付ける規制が定められています。

 ヨーロッパで日雇い派遣は存在するのかについては、正直なところわかりません。ですが、いろいろなことから推測すると、多くの場合、不況に対応するために雇われた外国人や移民が対象になっているのではないかと思います。派遣労働の構造は、トヨタカンバン方式によく似ています。これは、非常に効率的な仕組みですが、派遣労働の場合、対象が人間であるという点が、大きく違うところです。

 日雇いの派遣労働は、登録制の派遣労働よりもよくないものです。収入は不安定で、労働災害の危険も高いです。全てなくしてしまったほうがよい働き方だと思います。また、ここまで派遣労働が浸透してしまったことは、私たちの利便性ばかり追及する姿勢にも、問題があるのかもしれません。

●水島宏明(TVジャーナリスト)さんの話

 仕事柄、いろいろな国に取材にいくことがあるのですが、どこの国にいっても、グローバリゼーションの影響で、非正規雇用の問題は大きくなってきています。ヨーロッパでは労組の力が強くて、労働者の権利もある程度守られているところがあります。最近、韓国でも牛肉関連で非常に大きなデモがありましたが、背景には格差の広がり、非正規労働の広がりがあるようです。

 人を物のように扱うという話が出てきましたが、今年の夏の秋葉原の事件の犯人の方が携帯に書いていたものに「しゅうじ君」がブログに書いていたものと非常に似ていて驚いた、ということがあります。しゅうじ君は、ネットカフェ難民を脱出して、長野のソニーの工場で住み込みで働くことになった人です。3カ月の約束で働いていたのですが、会社側の都合で、1カ月足らずで、すぐに待機になって、クビを切られてしまいます。このクビの切られ方が、イジメのようなものなのです。寮の家賃を払わされたり、物を盗まれたりして、嫌がらせを受けるわけです。

 これは、非常に秋葉原の人と境遇が似ています。「僕らは使い捨てのカイロと同じですね」と彼が言ったのですが、非常に似ています。一方で、労働組合の取材をしていると、集合時間の2時間前に集められて、その分は給料が出ない。休業補償がない、などの話は、現在の法律でも、労組で戦ったり、労基所にいけば、十分に取り返すことができるものです。ところが、実際には労基所は敷居が高いのも現実です。先ほど白兼さんは、事前に電話をしてから行けば多少はマシになる、ということを言っていましたが、そのように、しっかりと労基所を使って取り戻していくことが大切です。この会場には弁護士の方も多いと思いますが、労基所に弁護士が同行するのもアリかもしれません。

 また取材していて思うのは、このような非常につらい現場で働いている人には、鬱になる人も多いことです。生活保護をとって生活しても、立ち直ることができなかったりします。現在の精神科の医者も結構あいまいなもので、ひどい鬱になっている人が診察に行っても、3人に1人くらいは、働いても大丈夫だと言ったりします。そのような人たちに対して、ただ薬を処方するだけでなくて、どのように対応するのかが求められています。現代では、貧困の状態も複雑化しているので、総合的に貧困問題への対処はどう行っていくかを、ここに集まっている我々が考えていくことが大切です。

●服部証(日本労働組合連合会愛知連合会)さんの話

 派遣で働くみなさんの問題は、本当にいろいろなものがあります。最初の雇用条件と全く違う働き方をすることになっているとか、途中で契約を打ち切られてしまったとか、あるいは、病気などで働けなくなったので辞めますといったら、賃金を払ってもらえないとか、さまざまな問題が寄せられています。これらの問題を一つひとつ解決していくために、連合は昨年、非正規労働センターというものを設置して、そのような非正規の人たちの問題に積極的に取り組んでいます。

 連合のホームページでは「フェアワーク・つながるネット」というものが作られていて、非正規の人たちが、それぞれつながっていけるような取り組みも行っています。やはりこのような問題を解決していくためには、派遣で働くみなさんが手を取り合って、労組を作って戦っていくしかないと思っています。そこで相談があった事例として、具体的な現場の話として、ある科学メーカーの事例を紹介します。

 これは、派遣で働いているような形でしたが、実際には請負だったというケースです。当初は6カ月の契約だったのですが、就業期間と労働時間を短くしてくれ、しかも、人員も少なくしてくれ、という話が請負業者にきて、人員が整理されてしまいそうになりました。現場で働いていた人たちと、請負業者が話し合いを重ねて、期間と人員削減の話を撤回させ、働く形態も、請負から派遣に変えることができました。この事例では、労組こそできなかったものの、みんなが力を合わせてなんとかなった事例です。派遣業者の中でも、中小の派遣業者に問題のあるところが多いように思います。大手の派遣業者は法律を守るところも多いですが、中小の派遣業者は回していくのがやっとで、お金儲けのために、法律を無視するところも多いです。

●名古屋ふれあいユニオン、酒井徹さんのお話。

 日建創業という会社から派遣されて、トヨタ車体というところで働いていました。ところが、去年の9月18日に突然10月9日に雇い止めになる、という通知をもらいました。派遣業者の話では、トヨタ車体が160名の人員削減をしてくれ、と言ってきたからだ、とのことでした。ですが、1カ月前には通知するのが当然のはずなので、当時、運営委員として関っていた名古屋ふれあいユニオンを通じて団体交渉を申し込みました。団体交渉の結果、1カ月の休業補償、会社の寮の使用、前職に見合う仕事の紹介、などを労働協約で交わすことができました。完全に勝利したと思いました。

 ところが、1カ月たっても、仕事の紹介は一件もされませんでした。向こうのひとは「仕事の紹介はします。1年後か5年後か10年後かわかりませんが、します」とのことでした。そうして自分は寮を追い出されて、名古屋市のホームレス一時保護所、通称「熱田荘」と呼ばれている施設に入所しました。その施設に収容されながら、労働争議を戦いました。この一件は愛知県の労働委員会にもちこまれて、最終的には、自分の言い分はほぼ認めてもらえる結果となりました。そして、失業補償で職業訓練をうけて、なんとかアパートも借りることができました。

 たとえ家を失っても、絶対に諦めない。当時、自分にいいきかせていたことです。例えホームレスになっても、労組の仲間を信じて戦えば勝てると信じてきて、実際に勝つことができました。そして自分は、今年の3月から名古屋ふれあいユニオンの運営委員長として活動をしています。今度は、自分の経験をいかして、皆さんの問題を解決させていただく立場に立っています。私たちは、非正規雇用の人たちの問題や、外国人労働者のみなさんの問題など、あまり組織化されない弱い立場の人たちの立場に立って戦う組合です。

 連合の服部さんの話で、仲間で集まらないとダメ、というお話が出ていましたが、まさにその通りだと思います。今年5月、名古屋市の施設で、指定管理者制度で運営されている、名古屋ボランティアNPOセンターで起こった事件を紹介します。ここで、ある職員の方が、即日不当解雇されるという事件がありました。この不当解雇に対して、職場の仲間は一致団結して取りやめにするように言ったのですが、上司にあたる人たちは「組織の決定だ」と繰り返すばかりですべて無視、これに対して、NPOセンターの非常勤職員だった柴田さんという方が、その場で労組を結成し、団交を申し込みました。

 この時にできた労組は、イキナリできたので「名古屋イキナリユニオン」という名前の労組です。そして、この不当解雇事件に対して、2日後に団交が行われました。名古屋イキナリユニオンは、施設の利用者や地域の人たちに広く呼びかけを行いました。団交当日には、わたくし酒井をはじめ、笹日労、市民運動の方、NPOセンターの利用者の方、当該の方の恩師など、30人近くの人たちが駆けつけました。イキナリ労組は、駆け付けた人たち全員を団体交渉員に指名、5時間に及ぶ交渉で、最後には不当解雇撤回を勝ち取りました。

 多くの人は、こういった問題が発生したら労基所に行くと思います。ですが、労基所のハードルは高くて、動きもあまりよくありません。あまり突っ込んだ対応をしてくれることも稀です。行ってガッカリする人も少なくありません。不当解雇されて、労基所にいくのではなくて「俺たちは労組だ」と言った。これはすごいことだと思います。そして、このあと「イキナリ労組」は、名古屋ふれあいユニオンの分会として活躍、最近は職場の多くの人の支持を集めて、自治労からも援軍がやってきて、活躍しています。

 日本の労働法は、意外と使える所のある法律です。多くの国の労働法では、職場の過半数を集めないと団交をする権利すらなかったりします。日本の場合は、2人集まればよいのです。しかも違う職場でもいいんです。

 今回のイキナリ労組の戦いは、その制度を縦横に使って戦いました。イキナリ労組を立ち上げて団交を申し込み、その団交には、集まってきた職場以外の人を大勢仲間にして戦った。すべて、労働組合法に書いてある労働者の正当な権利です。その法律の内容を、柴田委員長やイキナリ労組の人たちが、どれだけ知っていたかは、今では定かではありません。ですが、見事に戦ったのは事実です。日本には、このように世界でも最高クラスの労働法があります。これをもっと活用して、みなさんも戦っていきましょう。

●垂井直樹(弁護士)さんの話

 労働の現場の問題を根本から解決するには、やはり、労働者が労組をつくって交渉するのが鉄則で、間違いないと思います。ですが、残念ながら、全国の働くひとの職場での、労組の加入率は18%です。多くの職場には労組がありません。ないところで、どう権利を守っていくか、私たち法律家の責任は重いのです。

 私達が労働の現場で起こっている問題の中で、やはり非常に多いと思うのは、労働条件が一方的に変えられる事件が多いことです。賃金を下げる、あるいは、明日から契約社員だ、それを飲まないんだったら、辞めてもらっていい。このような話に対して、全く抵抗できない、という例が非常に多いです。こんなものは法律上、全く認められない話です。労働契約法という法律ができたのですから、この法律を私たちが活用すれば、絶対に跳ねのけられる問題だと思います。

 労働災害の問題も、私達が制度を活用していけば、跳ねのけていけると思います。非正規労働者の場合、使用期間の問題で、製造業では、2年11カ月で一旦契約を切られることが多いです。何度も契約更新されて、いつまでも正社員になれない人が多い。これをどうするか、つまり、派遣先の企業にどう責任をとらせていくかが大切です。簡単にクビにしてしまう企業に、私達法律家が、どのように迫っていくかが課題です。労災の問題は特に深刻です。派遣労働が製造業に解禁されてから、労災の数は3倍になっています。劇的に増えています。これは病的な状況です。物として扱われているのだと思います。

 違法な派遣について、もっと取り組んでいく必要があります。労働局からの指導も大切ですし、裁判として戦っていくことも大切です。松下プラズマディスプレイでの判決では、裁判所では詳細な事実認定を行って、黙示の労働契約、つまり、実際に書面を取り交わした契約ではなくても、はっきりと言明した契約でなくても、お互いに決めていった、という認定をして、この事件の救済を図りました。このような事例は、裁判所が、このような違法な事例にどうメスをいれていくのかに、知恵を絞った判例だと思います。私達法律家は、このような事例を参考に戦っていく必要があります。ですが、いまの派遣法には限界があるのも確かです。いまの派遣法は、業界に対する法律で、労働者を守る法律になっていないことが問題です。これをなんとかして、労働者の権利を守っていく法律にしていくことが大切です。


会場にはいろいろな階層の人たちが集まった。
質疑応答

Q:ネットカフェや派遣業で働いている人たちの精神的なケアも含めて、今後どうしていったらよいのでしょうか?

A(水島):たいへん難しい問題です。現在、福祉事務所は、精神的につらい人のサポートはしてくれません。東京では「もやい」という所が、精神的につらい人や、ホームレスの人、DV被害者の人たちのケアをしたり、一緒に役所の申請に行ったり、話を聞いたり、居場所を作ったりということをしています。長らく不登校だった人に、勉強を教えて高校に入るのをサポートする、ということもしています。とことん付き添う、というアプローチを、誰かがやらなければなりません。これは、本当なら福祉事務所などの人たちがやるはずの仕事です。

 こういった問題を、総合的に作る省庁が必要だと思います。現在、消費者庁をつくるという話が進んでいますが、そういった視点で、貧困問題を総合的に扱える省庁を作る必要があります。派遣労働法の話で言えば、中小企業も派遣労働がなくなると大変だよねとか、日雇い労働者も派遣が必要だよねという報道も出てきました。どっちつかずの話をしていると、最終的な法改正もいい加減なものになります。最終的には、そこで働く人が、人間らしい生活を不安なく送れるようにする視点が大切です。

 厚労省が来年からやろうとしているネットカフェ難民へ15万円を支給して、生活を立ち直らせよう、という政策について報道されたときに、朝から晩まで司会をしているあるTVキャスターが、遊んでいるような人たちに、皆さんの税金でお金を出すんですよ、という発言を行いました。これは、井戸端会議で話すような、非常に無責任な内容です。このキャスターは、ネットカフェ難民の実態について、取材もしていないし、何も理解しないままに、無責任な発言をしています。このような発言を許してはいけません。きちんとメディアに抗議をして、コントロールしていく必要があります。貧困問題が、国会や選挙でも重要な課題になっていくような問題にならないといけません。

A(服部):私達連合は、現在の非正規労働者の働かされかたは、間違っていると思っています。非正規労働でも、安定して生命を大事にする働き方ができるように、という運動をしてきました。最低賃金法も30年ぶりに変わりました労働組合の運動の成果です。他にも残っているワークルールの問題はたくさんあります。労働時間の問題、派遣法の改正が大きな問題の原因です。今現在も、その改定についての話し合いが行われています。連合のホームページにも随時情報が出ていますのでご覧ください。

 この問題については、私達連合の考え方は、はっきりしています。85年以前の状態に戻すことです。最低賃金の問題では、少なくとも、高卒初任給程度、つまり愛知県では943円、968円くらいでないと、格差は縮まっていかないと考えています。今の生活保護の制度は足りないところが多い制度です。生活保護を受けることになっても、また働いて自立できるようになる制度とセットにしていかないといけないと思っています。3段階くらいに分かれた生活保護の制度ができるとよいと思います。今、生活に困っている人は生保を取得する、就労支援の段階にきている人もある程度の支援を行う、今、働いている人も、生活保護を受けなければならないようにな支援が必要です。それぞれの人の状態に合わせた生活保護の制度が必要です。

Q:とくに酒井さんならわかるかもしれません。現代の新しい貧困ビジネスについて教えてください。

A(酒井):先ほどのしゅうじさん。非常につつましい生活をしていました。ですがその生活はとてもお金がかかっています。ネットカフェに泊まると、安いところで1日1000円かかります。1月31000円です。これはアパートが借りられる値段です。しかも1日1000円のところはシャワーがありません。シャワーのためにほかのネットカフェに行き、さらにお金がかかります。自炊もできないので食事にもお金がかかります。荷物もおいておけないので、コインロッカーに入れてまたお金がかかります。

 自分もトヨタ系の企業を追い出されて、一時保護施設にいたことがあるので、よくわかりますが、貧困の中で生活すると、かえって金がかかります。目に見えるだけが貧困ビジネスではありません。コンビニの弁当なんかも、結構、高いですよね。これも貧困ビジネスの一つだと思います。あと、職と住を一度に失う住み込み派遣をなくしてほしいと思います。職も住処も、どちらも重要なもので、どちらがなくなっても大変なことになるのですが、その両方を失うということが、数か月に一度起こるのが住み込み派遣です。今の制度では、契約が1年未満の人の雇い止めの通知を1日前に行うというのは、制度上正しいことになっています。ですが、現実としては対応することは無理です。せめて、1カ月前には通知するようにしなければなりません。あと、雇い止めになっても借地借家法の基準で、家賃を払えば半年は住むことができるとか、この程度の改善はしてほしいと思います。

Q:法改正の動向も出ましたが、今後の改善点についてお願いします。

A:(垂井):はっきりしているのは、いまの派遣法は改正するしかないという点です。派遣法は、一貫して緩和されてきました。規制を強化する方向でいくしかありません。この問題について、各政党に政策論争してもらいたいと思います。派遣法を整備して、よりマシなものにすることによって、派遣にかかわる業者が、何をしてはいけないか、何をしなければならないか、ということが、わかるようにすることが必要です。行政が動きやすくなるようにすることも必要です。そして、権利が侵害された時に、裁判にもっていって救済が受けられるようにすることも必要です。派遣先も、団体交渉に応じる必要がある、ということも明記することが必要だと思います。この一点が加わるだけでも、状況は変わる可能性があると思います。

 現在の学校では、おかしな教育がされています。高校生はバイトに行ってはダメ、これはおかしい。本来ならば、労働者の権利や働くことについて、5・6時間の授業を行ってから、バイトを許可するなどの方法にすべきです。また、派遣労働についてのCMも、どうかしています。TVCMや、電車の中刷りなど、街中に派遣労働のCMであふれています。ですが、派遣労働は大変危険なものなので、たとえばタバコの宣伝のように、派遣労働の危険性についての説明を入れることを義務付ける必要があるのではないかと思います。

◇ ◇ ◇

 会場には、200人を超える参加者が集まっており、座るイスもないほどの盛況ぶりでした。またパネラーの皆さんも、大変、熱心に話をしてくれて、とても意識が高いことをうかがわせました。ですが、筆者としては、なんとも微妙な気分になった一幕もありました。まず最初に、貧困というものは、一度陥ると、はい上がることが大変難しいもので、貧困家庭の子どはも、やはり貧困家庭になることが多く、貧困が再生産されていく可能性についての指摘しました。この指摘は、その通りだと、筆者も貧困家庭の出身ですので、そう思います。

 ですが、ここでかなり空しい気分になるのは、自分は、全く同様のことを、貧困襲来と騒がれる、はかる以前から痛切に味わっているからです。それは、自分がものすごい貧困家庭だったから? ……違います。「貧困の再生産」……これは、たとえば自分も含まれる「アイヌの人々」の生活水準などにも、言えることだからです。

 あまり多くは書きませんが、先住民族であるアイヌ民族は、住んでいた土地が日本に一方的に併合されてから100年以上、場所によっては松前藩時代から数百年、まさに「貧困襲来」の状態に晒されて続けてきました。この集会でも話題になった、住み込み派遣の問題や、雇い止め、這いあがれない生活、そしてそれが、自分自身を卑下する鬱状態につながる……これらの事例は、85年の労働法改悪以前の話、つまり、親や祖父母の世代に、かなり広範囲の「アイヌ」が経験した話として、繰り返し聞かされてきた話でもあるのです。そして、自分たちの世代、自分よりも若い世代も、同様の状態にある人が「一般の和人のみなさん」よりも、知っている範囲だけでも、ずいぶん多いように思います。

 もちろん、アイヌの家庭といっても色々で、お金持ちで地域の名士になっている方や、議員になっている人もいますが、それは基本的に、地域に生活基盤を確保できた人の話で、地域を出て出稼ぎにいった人の話ではありません。出稼ぎ組の少なくない人たちが「貧困襲来」の状態になっていたと考えても、不思議ではありません。

 「みんな、やっとで、同じ目に遭い始めた」というのが、実は、最近の貧困問題を取材していて痛切に感じる感覚です。厳密にいうと、自己責任論をより悪くしたような差別がくっついてくるので、もっとヒドイ内容なのですが、その話は今回は脇においておきます。

 なお、北海道が実施している生活実態調査は、北海道に住む人たちが対象であり、出稼ぎのために内地に向かった人たちのデータではない点に注意してください。また、この調査結果も、予算が大変少なく(タンチョウヅル調査の20分の1)、データが、本当の実態を反映しているのかどうか疑問がある、という声があがっています。

 次に、これは些細なことかもしれませんが……交流会の参加費が、異常にに高い、ということです。これは、昨年末に開催された生活保護について考える集会でも思ったことですが、交流会の値段設定が大変高いのです。たしか5000円でした。これは、弁護士の先生を基準にした値段設定で、生活が苦しい当事者は、とても参加できる値段ではありません。会場には、弁護士や司法書士の先生方も多くいらしていましたが、市民活動の現場でよくみかける人たちのような、お金がたくさんあるわけではない人たちも、かなりの数参加していました。

 俺達はカネがないので、何でもタダにしろ、安くしろ、とゴネる気はありませんが、もうすこし、頑張れば参加できそうな値段にしてほしいなぁ、と思いました。このような取り組みが、いろいろな人たちを巻き込んで広がっていくのは、大変良いことですが、もうすこしフラットな取組になることを期待したいと思います。それには、お金をもっている人は、お金のない人のことを考えて、そして、お金のない人たちは、なんでも要求するのではなくて、一緒にやっていくという意識を大切にして参加する、ということではないかと思います。


◇ ◇ ◇
ウタリ生活実態調査(ウタリ協会)
ウタリ生活実態調査(北海道)
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